サイエンス

Twitterで話題になった農薬を洗い落とせる水について

以前、Twitterで問題になっていたベジシャワーという商品について、いろいろ思うことがあったのでTwitterで連続tweetしました。で、埋もれてしまうのもアレなのでまとめてエントリーを起こしたのです。


さて、きっかけになったtweetは次のものです。
https://twitter.com/y_psychologist/status/1057801124151869440


問題点は以前に解説しているこの記事が参考になると思うのでご紹介。

以前から繰り返し言っていますが、この商品がどういう性質のものであれ、これほど目に見える形で農薬が残留しているということは考えられません。農薬と一口に言ってもさまざまな種類があり、たった一種類の薬品?で抽出可能なわけはないのです。



自分自身は残留分析の担当をしたことはありませんが、肥料の化学分析は専門でやっていたことがあるので、成分ごとに分析できる形(多くは液体)にするための抽出や分解などの前処理については、その大変さはよく理解できているつもりです。



先ほど紹介したブログ記事にもあったように、トマトをアルカリなどで洗えば、リコピンかカロチンが溶け出してくると思われるので、おそらくその色ですよね。そうでないというなら、慣行栽培のトマトと無農薬で栽培したトマトの両方を洗ってその色を比べてみる必要があると思います。



また、トマト類は汁液が付き易い植物で、茎や葉などを触ったあと石鹸で手を洗うと黄色っぽい緑色の泡が立ちます。トマト果実の表面にはこの汁液がたくさん付着しており、水などで洗うことで、この汁液の色が目立っている可能性も十分考えられます。



なので、トマトの表面に問題があるほど農薬が残留し、あの商品によって農薬が除去できていると主張するなら、洗浄した液体を農薬分析にかけて、そのデータを公開するべきです。もちろん、一般に流通しているものをランダムに抽出してサンプルとしなければなりません。



このようなことから、あの商品説明は不誠実であると言わざるを得ないと思います。



さて、ミニトマトの農薬散布回数について、49回という数値に妥当性は本当にないのでしょうか。結論から言うと、あの言い方はかなりの誤解を誘導するものであり、わざと慣行栽培のトマトを貶める意図があると思われても仕方がないものだと言えますが、数値そのものは全く根拠がない、とまでは言えないと思います。



あの書き方だと、説明不足にもほどがあります。収穫されたミニトマト自体が結実から収穫までに49回も農薬が掛かっているかのようです。通常、開花から結実までは季節によって違うものの、最も長い時期でも45日くらいですから、それだと毎日、たまには日に二回農薬を散布しなければなりません。



元tweetを引用した方は5月植で7~9月に収穫するとおっしゃっています。それは全く正しいのですが、ミニトマトにはいろいろな作型があり、それだけではありません。Tweet主のおっしゃっているのはおそらく雨よけ夏秋栽培という作型かと思われます。



一般に流通しているミニトマトは、少なくとも西日本で多い作型は促成長期栽培と言って、8月中下旬に定植して10月ごろから収穫が始まり、6月くらいまで獲り続けるというものです。その作型になると、病害虫の発生が多い年の場合、農薬の散布回数はかなり多くなると言えます。



ここで、先に農薬の散布回数について、49回という数値の根拠について定義を考えてみます。日本には減農薬・減化学肥料栽培という用語の濫用を防ぐため、「特別栽培農産物の表示に係るガイドライン」というものがあります。



詳細な説明はここでは省きますが、農薬の使用回数を半分かどうか判断するために、それをカウントする際、実際に農薬を散布した作業回数ではなく、農薬の成分の数でカウントするというややこしいことをしています。



例えば、農薬散布の作業回数を減らすために、農家さんは殺虫剤と殺菌剤を混用するということをよくやります。この場合、殺虫剤が1、殺菌剤が1で合計2回農薬を使用したとカウントされます。



なので、先ほどのミニトマト促成長期栽培の場合、9~6月の10か月という長期間にわたる栽培になるので、月に2回農薬を散布したとして実際の作業回数は2×10で20回ということになります。



そこに、それぞれ殺虫剤と殺菌剤を混用して農薬を散布した場合、特別栽培ガイドラインの定義では20×2で40回もの農薬使用回数ということになります。そこへ、種子消毒や苗育成中の農薬を加えると49回というのはあり得ない数字ではないということになります。



特別栽培などについては、各都道府県が地域慣行栽培の農薬使用回数というのを公表している場合があります。これは、地域によって病害虫の発生状況が違うため、農薬の使用回数も違いがあり、全国で統一すると減農薬のやりやすさに地域格差ができるため、そのように設定しているものです。



そこで、先ほどの定義に戻って各都道府県が公表している農薬の使用回数を調べれば、ミニトマトの促成長期栽培の慣行において、49回としているところが出てくる可能性は十分にあるわけです。この数字はもし根拠があるとすればそこを参照した可能性が高いのではないかと思っています。
※注
とあるフォロワーさんが教えてくださいましたが、どうやら群馬県の特別栽培認証基準で、ミニトマトの慣行栽培において農薬の使用回数が49回となっているようです。
http://www.pref.gunma.jp/06/f0910002.html


とはいえ、先ほども述べたようにトマトの果実だけに絞って考えれば開花から収穫までの農薬散布回数は2~4回程度、成分の数を考慮してもその2倍程度までと言えるでしょう。しかも、ふつうは同じ農薬を続けて使うことはありません。使用回数の制限や抵抗性の回避を考慮するからです。



また、農薬の使用に関しては、人間の健康に影響がないよう、個別にその濃度や使用回数に関して厳しく制限されています。どの農薬も、普通に使われている限り収穫時に基準値を超えるような残留は起こりません。



これらのことから、かりに49回使用されていようとよほどのことがなければ、普通に流通しているミニトマトで水で洗ったくらいで目に見えるほどの農薬が抽出されるなどありえないのです。その数字のインパクトだけを強調して、農薬のものかどうかわからない「色」で脅すのはやり方が間違ってます。

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厄介な植物のウイルス病 ~アザミウマが媒介するトスポウイルスとは~

植物病害のうち、糸状菌や細菌の場合、胞子の飛散や土壌、水媒伝染などにより病気が拡散しますが、ウイルスは基本的には生体内でしか増殖、生存できませんのでそういった伝染形式はほとんどありません。直接の接触や剪定鋏での作業などによる汁液感染、害虫のアブラムシやアザミウマ、コナジラミなどを通じた虫媒伝染、挿木や接ぎ木、花粉や種子などの生体内に残存しての世代間伝染などになります。

そこで、対策ですが同じほ場内部での汁液感染については、作業する上において発病株の早期発見と剪定用の鋏などを随時消毒や交換しながら使うなどの工夫をすることがポイントになります。世代間伝染ではいわゆるウイルスフリー株を使う、またはそれらを使って生産された無病の挿し穂や苗を使うことが対策となるでしょう。

厄介なのが虫媒伝染です。最近メロンやキュウリで猛威を振るっているメロン黄化えそウイルス(MYSV)はミナミキイロアザミウマが、トマトに甚大な被害をもたらすトマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)はタバココナジラミ(シルバーリーフコナジラミ含む)が媒介します。

TYLCVについては、最近になって耐病性品種が多数開発され、比較的容易に、また品質も従来品種と変わらず生産できるようになってきています。もちろん耐病性品種といっても、まったく発病しないわけではないので、従来通りの防除は必要です。

露地栽培では侵入防止対策が極めて難しく、施設栽培でもネットの展張などの侵入防止対策をしても、100%の侵入防止はほぼ不可能であると言えます。アザミウマなどの微小害虫が通過不可能なネットだと換気効率が極端に落ちるため現実的ではありませんし、たとえそういうネットなどを使用したとしても作業者の出入りなどの際に侵入があったり、気を付けているつもりでもビニールハウスなどではどこかに隙間はできるものです。

ですが、完ぺきではなくても例えば0.6mm目合いのネットではアザミウマなら侵入率を30%程度までには下げられますし、光線を拡散する資材(白いタイベックシートなど)をほ場周辺に使うことでアザミウマやアブラムシなどの視覚をかく乱して飛翔を妨害し、侵入しにくくすることはできます。

また、それでも不幸にして黄化えそ病などの致命的なウイルス病が発生してしまった場合、発病株の抜き取りと適切な処分(ビニール袋に入れて廃棄、土中への埋設、焼却など)を行い、同時に保毒虫の撲滅を目的とした薬剤による防除が必要になります。

さて、虫媒(主にアザミウマ)伝染によるウイルス病の防除対策についてお話しして来ましたが、メロン黄化えそウイルスなどトスポウイルスの場合、アザミウマが一度ウイルスを含む汁液を吸っただけで生涯にわたって感染能力を持ち続けるのですが、それはなぜでしょうか?

実は、トスポウイルスは、種としては動物ウイルスBunyaviridac科の仲間に含まれ、その中でもMYSVなどはアザミウマの体内で増殖が可能なのです。主に1例幼虫の時に保毒植物から吸汁してウイルスを獲得し、その後アザミウマの体内を移動し、唾液腺に到達してそこで増殖しながら植物への感染機会を待つ、という戦略をとるわけです。また、それらのウイルスはアザミウマの行動も制御し、感染植物には雌成虫が集まりやすく、強い産卵選好性もあるという報告もあります。元になる文献が確認できていませんが、トスポウイルスは元々アザミウマなどに感染するウイルスが変異したものではないかという説もあるようです。

それにしても、元々アザミウマのウイルスだったのならアザミウマとの共同で植物を冒すのではなく、アザミウマの方を脅かしてほしいものですね。

参考サイト:
『むしコラ』 虫媒性ウイルスの巧妙な手口

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ニンニク(暖地系)分球の条件とは ~スポンジ球って何だ~

ずいぶん久しぶりになってしまいましたが、これからまたちょくちょく書いていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。今回から、ちょっと文体を変えていきたいと思います。

関係ないですが、某コーヒー本の書評を書きたいとずっと思っていますが、なんせ世界の地理や歴史に対する知識があまりに浅く、理解が深められないのでまともな書評が書けていません…自分の教養の浅さにうんざりするこの頃です。

私が暮らしている地域は西日本ではニンニク栽培が盛んな地域で、日本一のニンニク産地、青森県の出荷が少なくなってくる春先に早出しをする栽培体系で、収益をあげています。ニンニクを収益の柱としている生産者も多く、ニンニクの品質、収量や単価によって生活が大きく影響を受ける人も少なくありません。

さて、昨年産(植え付けは一昨年)のニンニク栽培ですが、(ここのところ毎年のように)台風などの影響もあってほ場準備が遅れました。その後は暖冬の影響もあって生育自体は順調だったのですが、こちらではスポンジ球と呼んでいる分球しない株が大量に発生し、生産者の収量・収益が大幅に圧縮されてしまいました。

ニンニクは、中心にある生長点が花芽となることで、側球と呼ばれる新しい鱗片が形成され、そこが肥大して店舗で販売されているようなニンニクになります。タマネギと違って、小さい鱗片が寒冷地系品種(ホワイト6片など)ではおよそ6片、暖地系品種(上海早生など)では7~8片が中心の軸(花茎)を取り囲むようについています。この、側球が形成されず、タマネギのように一つの球となり、肥大も悪いものをスポンジ球と言います。

ニンニクが分球する条件は、低温、長日と言われています。日本では、季節的に低温であれば短日になるのが必須ですし、分球の長日条件は20時間と言われていますので、日本にはそこまでの長日になる地域は存在しませんから、必然的に低温が必須となります。

つまり、昨年産のニンニクでスポンジ球が大量発生したのは低温に遭遇する期間が不足していた、というのが最大の原因であろうかと思われます。施肥とか植え付けとかが大きく影響しているならほ場や生産者によってもっと差がついてもいいと思われますが、栽培条件とスポンジ球発生率の調査状況を見てみてもはっきりした相関は見られませんでした。

もう一つ自分が原因として疑っているのは、分球し始めるのは1月くらいかと思いますが、昨年は植え付け時期や気候などから花芽分化が遅れ、花芽分化が始まるのと夜温が上がり、雨が多くる時期が被ったのではないか。そのせいで花芽分化時期に残留していた肥料が効き始め、花芽分化が抑制されたのではないかということです。一般的に花芽分化は窒素の肥効と負の相関があるためです。乱暴に言うと、窒素がよく効いていると花芽はできにくくなるということです。

さて、それらを踏まえて今年あるいはそれ以降はどうしたらいいのでしょうか。

まず、その年の気候がどうなるかは長期予報などである程度予想できるとはいえ、正確には読めませんのでとりあえず作業時期は植え付けから土寄せ、マルチ掛けも例年通りの適期に行うこと。早すぎる作業はスポンジ球のリスクを高めるのではないかと思います。また、施肥量、追肥の時期も適切に。先ほど述べたような理由から、多すぎる施肥は花芽分化を抑制する可能性が高いからです。また、多肥栽培は病気のリスクも増加させます。種球の大きさも大きすぎないように。大きい種球は大玉を収穫しやすくはなりますが、これもスポンジ球のリスクにつながります。種球を割った後、大きい種球は日当たりが悪いなど条件の良くないところに植えるなど工夫しましょう。

ただ、今年の状況からすれば1~2月の寒さが異常なくらい厳しかったため、スポンジ球の発生率は低いものと思われます。一点だけ心配があるとすれば、昨年秋も台風など非常に雨が多く、ほ場準備の遅れから植え付けも遅れに遅れ、生育が良くない状態で厳寒期に突入してしまったことです。それが低温感受性にどのように影響してくるかもう一つ読めないと思っています。

それから、3月に入ってからは急激に気温が上昇し、そこからの地上部の生育が順調すぎるところも気になります。残留していた肥料の効き具合もはっきりしませんし、これだけ生育が急だと病気の発生は多くなりますし、2次生長(分球した新しい鱗片から発芽が起きてしまい、品質が低下すること)も心配です。

さて、ここから先、今年の雨や気温はどうなるんでしょうか。すべてのニンニク生産者の方が良品を収穫し、気候だけでなく懐も温かくなってくれることを祈りるばかりです。

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窒素固定菌(根粒菌)とはなにか

さて、先日Twitterで根粒菌の話題が出ていたので、それに絡めて植物栄養で窒素の話、特に根粒菌というか窒素固定菌について取り上げてみよう。
窒素関連の話題については「有機物施用とアミノ酸吸収について」や「有機栽培と大規模農業経営は対立する概念? ~有機栽培での窒素供給について~」、「化学肥料、何が問題なのか」などで取り上げてきた。植物栄養の窒素としては十分に取り上げてきたと思うので、ご参照いただきたい。
窒素は地球上に豊富に存在し、大気のおよそ80%を占めている。しかし、それはN2という窒素分子の状態であり、非常に安定している。このため、生物の必須元素でありながらほとんどの動植物は大気中の窒素を直接利用できない。自力では有機物として循環している窒素しか利用できないのである。そこで、大気中の窒素を固定し、主に植物が利用できる形態にできる微生物がおり、それと共生するなどして取り込んでいる。それらの菌を総称して窒素固定菌という。それでは、菌の種類(大きなくくりです)ごとに解説してみよう。

1 根粒菌
グラム陰性の桿菌で、主にマメ科植物の根に寄生して空気中の窒素を還元してアンモニア態窒素に変え、宿主に供給する。鞭毛をもち運動性を有するが、宿主に寄生するとこん棒状などのバクテロイドとなり、宿主から光合成産物を受け取って、これを利用してアンモニア態窒素を供給するという共生関係にある。宿主の植物種に対する特異性から8種類に分類されている。窒素固定菌の中では最も効率がよく、9kg/10a以上の生産能力がある。
このようなことから、マメ科植物は窒素肥料を施用しなくても育つ。営利栽培の大豆などでも他の野菜類に比べると窒素施用量は少ない。また、このような性質を利用してマメ科植物を緑肥作物とすることも多い。秋~春にかけてレンゲソウ(紫雲英・ゲンゲ)を水稲の裏作に作付し、春先にすき込むことで空気中の窒素を取り込み、基肥の代替とすることも行われている。

2 フランキア
アクチノリザル植物(ブナ科やバラ科、ウリ科などの一部)という植物群と共生する窒素固定菌であり、真正細菌の一属で放線菌。放線菌は細菌でありながら多細胞で、菌糸や胞子を形成し、見た目は糸状菌(カビ)のようである。ベクシルという細胞を形成し、そこで窒素固定を行う。

3 アゾトバクター
非共生的に窒素固定を行う細菌。好気的環境において単独で窒素固定を行い、酸素がないと生存できない。窒素固定だけでなく植物ホルモンの産生も行い、土壌に接種することでムギなどの増収効果があることが知られている。作物根圏に定着させる条件は明らかになっていない。

4 ラン藻類
藻類の一種ではなく、細菌と考えられ、近年は藍色細菌と呼ばれている。ラン藻類には窒素固定能を持つものも多く、アカウキクサなどと共生している種類もある。

5 その他
嫌気性菌のクロストロリジウム、光合成細菌の一部、メタン菌の一部、硫酸還元菌の一部などが窒素固定を行う。

6 番外
窒素固定ではないが、植物の根と共生する菌根菌というものもある。様々な高等植物の根と共生し、難溶性のリン酸を可溶化することで植物に供給する。糸状菌で、内部に着生するものと外部に着生するものがある。

以上、窒素固定菌について解説してきたが、菌の種名、分類についてはよくわかっていないので、そのあたりのツッコミはご遠慮願います(苦笑)

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IPM(総合的病害虫管理)ってなんだろう

農業生産の現場にいると、IPMという言葉を最近よく目にするようになった。これはIntegrated Pest Managementの略で、日本語では総合的病害虫管理と訳されることが多い。これは農薬だけに頼らず、利用可能なすべての防除技術をそれぞれ矛盾することなく組み合わせて実用上収益に問題ないレベルまで病害虫を抑制しようというものである、と私は理解している。念のため、FAO(国連食糧農業機関)による定義を引用しておこう。

『Integrated Pest Management (IPM)とは、農作物に対する有害生物制御に応用可能な全ての技術を精緻に考慮し、それらの発生増加を抑制する適切な方法を総合的に組み合わせ、農薬やその他の防除対策の実施は経済的に正当なレベルに保ちつつ、人や環境へのリスクを軽減または最小限に抑えることを意味する。IPMでは、農業生態系撹乱の可能性をより少なくし、有害生物の発生を抑える自然界の仕組みをうまく活かすことにより健全な農作物を育てることが重要視されている。』

ここでは人や環境へのリスクも軽減することが謳われている。ここでお気づきの方も多いと思うが、ことさら農薬の低減を強調したり、食の安全安心の向上に触れたりしていない。もちろん、「人へのリスク軽減」という部分からそう読み取れないこともないが、それらを含んでいるとはしてもそれが目的の主体でないことは明らかだ。
というのも、「食の安全」という意味において、農薬の低減や不使用はあまり意味のあることではない。農薬の使用基準については品目ごとに厳密に残留基準値を超過しないように設定されており、残留基準値自体も健康影響が起こらないように設定されていることは以前から述べている通りである。

ではなぜ、こういう概念が生まれ、普及してきたのだろうか。その歴史については農薬工業会のサイトが詳細に解説している。そちらはそちらでお読みいただくとして、以下で私の個人的見解を述べてみたい。

農薬工業会のサイトで解説されているように、IPMの元となる考え方は化学農薬に頼りすぎた防除体系に対する反省から1960年代から提唱され始めたようだ。ただ、私の印象では少なくとも日本では2000年代に入るまであまり浸透していなかったのではないかと思われる。というのも、農薬の使用基準に対する使用者の違反は平成15年に農薬取締法が改正されるまで罰則はなく、濃度や使用後日数が守られていない事例もあったのではないだろうか。それでも残留基準自体がかなり安全側に振った設定になっているうえ、使用基準も残留基準を超えないように余裕を見て設定されていたため、食品として流通している農作物で直接の健康被害はまずなかったはずである。
それでも平成15年の農薬取締法改正以後、というより平成14年の無登録農薬事件以降、世間(というより流通業者)の目が非常に厳しくなり、農薬使用基準の遵守や化学農薬の使用低減への意識は急激に高まってきたと思う。

  また、その事件等とは関係なく、農薬の安全性向上は農薬メーカーでも取り組まれ、様々な病害虫に対し、より特異性が高く人畜への毒性が低い農薬が開発されており、そういった農薬への移行が進んでいる。また、農薬工業会のサイトにも書いてあったように昔の農薬のように強力で一網打尽できるような殺虫剤は害虫の天敵も撲滅してしまい、かえって害虫を増やすというような現象(リサージェンス)を引き起こすこともあり、また強力であるがゆえに同じ農薬を繰り返し使い、抵抗性も発達させ、効果も現れにくくなってきた。そのような面からもIPMには意義がある。

さて、それでは生産の現場ではどのような技術が用いられているのだろうか。

1 耕種的防除
栽培上の工夫で病害虫を減らす防除技術。土壌改良や耕起などによる土壌の膨軟化や水はけの改善によって植物を健全にするとともに土壌伝染性の病害を減らす、残渣の圃場外への搬出により病原菌などの増殖の防止、輪作によって特定の病害虫の増加を防ぐ、台木や抵抗性品種の使用、それらを総合して栽培環境を適正化することによって防除を行う。

2 物理的防除
物理的障壁を作ったりすることで病害虫の侵入を防ぐ技術。防虫ネットにより害虫の侵入を防ぐ、粘着トラップなどで害虫を捕獲する(これは個体数の低減よりも発生のモニター目的のことが多い)、光が散乱する資材で害虫の飛来を阻害する(UVカットフィルムも含む)、紫外線や緑色光で抵抗性を誘導する、黄色蛍光灯で夜蛾類の飛来を防止する、などである。

3 生物的防除
生物を用いて病害虫の活動を抑制する技術。天敵による捕食で害虫の密度を下げる、拮抗する微生物により病原菌の増殖を抑制する、害虫に対する毒素を持つ微生物資材(菌そのものの場合と抽出毒素の場合がある)により防除する、など。

4 化学的防除
いわゆる化学農薬を使用した防除。殺虫、殺菌のほか誘因や忌避剤も含む。

これらを相互に矛盾しないように使用する、と先ほど述べたが、このあたりのマネジメントが難しいのである。例えば天敵を使用する場合、特にハダニ類の場合は同じダニ類の天敵であるカブリダニを使うことが多いが、当然ながら殺ダニ剤は天敵のカブリダニも殺してしまう場合がある。天敵のカブリダニには効果が少なく、ハダニには十分な効果のある薬剤もあるが、そうすると使える薬剤が限られ、慎重に防除のタイミングを図る必要がある。また、天敵が活動しやすい環境を作る必要もあり、そのためには餌になる害虫もある程度の発生は許容する必要があり、化学的防除への切り替えのタイミングを見誤ると被害が増大することもある。このため、IPMをうまく運用するためには発生密度やその他環境のモニターが欠かせないのである。

今回、IPMの意義や技術内容を紹介しようとして、すごくまとまりのない文章になってしまった。しかし、言いたいことはあらかた吐き出せたと思うので、疑問点や誤りなどご指摘していただき、より理解が深められれば、と思っている。

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畝山智香子 著 「健康食品」のことがよくわかる本」

最近、すっかり書評ブログと化している当ブログです・・・。
今回は食品安全情報blogを書かれている畝山智香子さんの「「健康食品」のことがよくわかる本」を取り上げてみたい。畝山さんは国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室長という立場にありながら、上記のblogを立ち上げて情報発信に努めておられる方だ。そのような方がいわゆる「健康食品」についてどのように書かれているのだろうか。

目次構成は日本評論社のサイトをご覧頂くとして、本の構成に沿って内容を紹介し、コメントしていきたい。

さて、まず第1章では医薬品の安全性がどのように担保されているのか(一般向けとしては)詳細に解説されている。その内容については繰り返さないが、これを読めば医薬品がいかに何重ものハードルをくぐり抜けてきているかわかると思う。しかもそれは、厳密にルールが決められていて、脇道や近道など無いこともよくわかるだろう。しかも、一旦承認された医薬品でもその後現場で使用されるに当たって、何か問題が起これば直ちにフィードバックされ、常に見直しが行われるということも知って頂きたい。
ともかく、表の細かい中身などまで理解し、覚える必要は無いと思うが、医薬品承認の厳密性は「科学」というものに通底する「確実性」を担保するための考え方にも通じる部分があるので、是非理解して頂きたい。自分の主戦場である農業においても、農薬の登録が医薬品と同じような考え方でなされていることも知ってもらえるとありがたい。

第2章では食品の安全性についての解説がなされている。予備知識なしに一般的に考えられている食品の安全性についての考え方と実際にどうリスク管理をするのかという考え方のギャップに驚くだろう。実際、伝統的に食べられてきたから安全とは言えない、ということが理解できれば、この本の目的はある程度達成できたと思って良いのではないか。

第3章では医薬品と食品の間に位置するものについて。漢方薬(医薬品でもある)、伝統療法、サプリメントなどだ。オーストラリアやEUなどでのそれらの定義や規制について紹介され、日本のそれと比較してある。また、実際にあった事例を紹介し、それについて解説されている。
それぞれの国や地域で歴史や伝統的食生活の違いがあるので一概にどうこうは言えないが、概して日本のものは緩い印象である。もちろん、緩いことは悪い事ばかりではないが、消費者にとっての利益で考えるとどうにも上手く考えがまとまらない。情報提供はしっかりやって欲しいなと思う一方、あまり細かく書いて誰が読むのかなぁ、と思ってみたりする。

第4章では食品の機能表示について、やはり日本の場合と欧米、韓国などの実際の事例も紹介しながら、科学的根拠がないことの危うさについて書かれている。それにしても、この章ではなおさら日本の規制の緩さ、そこへつけ込む「健康本」やマスコミの健康関連記事について危機感を感じてしまう。米国では忘れ去られそうになっているものが日本ではまだはびこっていたりするのである。もちろん、欧米(ひとくくりにしてごめんなさい)の方が酷い場合もあるのだが・・・。

最終章では「食品」の機能についての解説と、それらの機能に対する一般人のイメージと食品系の科学者、技術者とのギャップについて書かれている。そして、著者の考えとして機能性表示よりも科学的根拠に基づく栄養成分表示を提言している。情報提供の正しさとしてはそれがベストなのだろう。しかし、それを実際の効果としてベストにするには社会全体での科学的な視点というものを充実させていく必要があるだろう。

いずれにしても、日本では情報が少ないのを良いことに、マスコミが都合の良いところだけ切り取った報道をしがち(個人的な印象です)なのはどうにかならないかと思っている。それだけに、どらねこさんのブログ「とらねこ日誌」でも言及されていたように、そういった情報発信をする人たちにこの本は読んでもらいたいと思う。

最後に、第4章の終わりに書いてあった言葉を引用して終わりとしたい。
「科学は冷酷なので人の気持ちなど斟酌しません。どんなに一生懸命だろうがどれだけ苦労して開発したものであろうがダメだった仮説は捨てられます。それはある種の人々にとっては受け入れ難く、別の仮説に昇華し損なったりした仮説が幽霊となって彷徨うのでしょう。もちろん幽霊を作っているのは科学ではなく人間の「思い」なのです。」
まさしく科学を科学たらしめているのはこの根本にある「物事を人間の思いを排して確かめるための方法」なのである。そのことだけでも理解して頂ければずいぶん世の中は変わると思うのだけど・・・。

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「醤油本」

というタイトルのムックが発売されているということをTwitterで相互フォローの方から教えていただいた。それに、直接の知り合いではないが結構身近な人が著者に名を連ねているということもあり、仕事にも関わることなので購入してみることにした。

まずは醤油の歴史や地域性について解説がなされており、一般的に知られている淡口、濃口醤油の違いについて、製法から解説してある。一般に関西では淡口、関東では濃口が主流と簡単に思われいている、というか自分はそんな程度の認識だったが、関西でも多いのは濃口で、淡口の比率が関東よりかなり高いというだけだったのは意外だった。

そのほかにも九州で主流の甘口醤油は香川でも結構流通しているらしく、我が家では甘口醤油はあまり使うことがないのでそういうことも知らなかった。

刺身には刺身用の醤油を使っているが、単純に「溜」を使っているものと思っていたし、溜というものは単に濃口をさらに濃くしたものかと思っていたが、それも違った。製法だけでなく、原材料にもいろいろあり、それらがあの豊かな風味の違いを生み出していたというのは非常に興味深いものであった。というか、自分の無知が恥ずかしくなる思いだった。刺身醤油も単に溜醤油というわけでなく、食材によってはその他の醤油が合う場合も多いようだ。

アミノ酸を添加する混合醸造やその他の添加物についても丁寧に科学的に解説してあり、必ずしも本醸造や昔ながらの長期間の熟成が良いばかりではないときちんと述べている点にも好感が持てた。この辺は100巻以上続いている某グルメ漫画とは違うところだ。

それから、醸造用の木桶復活にも触れられているが、これがまた結構身近で行われていることに驚いた。小豆島のヤマロク醤油というところの社長が取り組んでいるようだが、これはもしかして前回の瀬戸内国際芸術祭の折に小豆島の醤の里で見たものがそうだろうか。また、醤の里に行く機会があったらぜひ訪れてみたいものだ。そのときはツーリングもかねて、私がもう一つ運営しているバイクブログの方で紹介できればと思っている。

蔵元紹介のページでは各地の味わい深い蔵元が紹介されていた。それによると、自宅から結構近いところにおもしろそうな蔵元があるようだ。また是非立ち寄ってみよう。そのほかにもこの本には紹介されていない蔵元が近くにあるはずなので、そこも覗いてみよう。スーパーなどで売っているのを見かけたことはないので、直売してもらえるのなら買ってみたいところだが。

ただ一点だけ気になったのは、遺伝子組み換え大豆に関する記述で、決して否定的に書いているわけではないが、気になる人向けに表示で見分けるための知識が紹介されており、少々もやもやする気分にされてしまった。ほんのわずかではあるが、マイナスイメージにつながりそうな書き方をされていたからである。

ともあれ、全体としては非常に読みやすく、内容も好感の持てるものだった。こうした調味料に興味のある方、大メーカーの大量生産品や添加物が気になる方、地域ごとの、地元の醤油事情が知りたい方は是非手にとって読んでみることをおすすめしたい。
ソースでもこういう本が出ることを期待している(某氏に向けて)。

本の出版情報を記載していなかったので、追記しておきます。

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有機栽培と大規模農業経営は対立する概念? ~有機栽培での窒素供給について~

さて、こないだ某所で有機栽培における窒素供給の観点から、有機栽培は大規模経営には向かないのか、といった話が持ち上がっていたので、そのあたりどういう風にまとまるかは自分でも読めないが、取り上げてみたい。なお、有機栽培の定義からすると農薬の使用についても関わってくるが、今回は肥料成分、中でも窒素成分についての話に絞って論じてみたい。

とりあえず、関連する過去記事を上げておく。

窒素を施用しないで炭素のみ循環させて行う農法がある。その中で、炭素を循環させることの意味についてお話しています。

初期のエントリーで、一文が長く読みにくいですが、とりあえず有機農法の定義について冒頭だけお読みいただければ。

-引用開始-
有機農法と慣行農法の収量の差がこれまで推定されていたより少ないと主張する論文について。内容をよく見ると有機農法だけローテーションしていたりと比較のしかたがおかしいところが多い。窒素必要量の多い作物での有機農法の不利は圧倒的な事実である。収量を環境とは関係がないと主張しているが、それこそが持続可能な農業にとっては重要な問題である。さらに有機農業と大規模工業的農業は対立概念ではない。大規模有機農業も小規模環境農家もいる。そもそも圧倒的に慣行栽培が多く米国では有機栽培は作物で0.8%畜産で0.5%のみ。しかも有機のうち大規模(500エーカー(2 km²)以上)のほうが多い(60/40)。
(ちなみに日本の農家の平均耕作面積が2ヘクタールで500エーカーの100分の1)
-引用終了-

有機農法の定義から言えば、十分な窒素施用量を確保することは実はそれほど難しいことではない。有機質資材由来であれば窒素成分をいくら施用しようともそれは有機農法の範疇になるからである。鶏糞や菜種油粕、米ぬかなど比較的窒素成分量の多い有機質資材はいくらでも存在する。では、なぜ窒素必要量の多い作物では有機栽培は不利なのか?
小規模であれば、さほど不利ではないと思う。必要十分な肥料さえ確保できていればまず問題はない。作物の生育を丁寧に観察し、施肥量などを適切に調節したりなど手間と費用を考えなければ品質収量を確保することは十分に可能だからである。

それが大規模になれば事情は変わってくる。安定した品質の有機質肥料を大量に確保することは難しいし(規模にもよるが、そもそも有機質肥料等の生産や品質が安定しない)、有機質肥料は目的とする作物の窒素量の確保だけでなく、他の養分のバランスも、作ろうとしている品目にとっていいものとは限らないからである。

それでは、よく使われる有機質肥料や堆肥の含有成分はどのくらいだろうか。一覧にしてみよう。一応これらは保証成分として表記されているものをおおよそでまとめてあるので、「なし」となっているものも本当に0%というわけではない。なお、家畜ふん堆肥はおがくずなどの副資材を含まない場合を想定している。

1) 魚かす 窒素5~8%、リン酸5~8%、加里なし
2) 窒素質グアノ 窒素13~15%、リン酸8~9%、加里1~2%
3) リン酸グアノ 窒素1%以下、リン酸27~30%、加里1%未満
4) 菜種油粕 窒素5~6%、リン酸2%、加里1%
5) ダイズ油粕 窒素6~7%、リン酸1~2%、加里1~2%
6) 牛ふん堆肥 窒素2.3%、リン酸4.1%、加里0.4%
7) 豚ふん堆肥 窒素3.8%、リン酸5.4%、加里5%
8) 鶏ふん堆肥 窒素3.1%、リン酸8%、加里4%

(参考:農文協 肥料便覧第5版 伊達昇・塩崎尚郎編著 若干数字は丸めてあります)
これは、含有量での表記なので、植物がすぐに利用できる成分の割合(肥効率という)はこれぞれ違ってくるので注意が必要である。例えば、同じ家畜ふん堆肥でも牛ふん堆肥は炭素率(炭素/窒素の重量比)が高いため、肥効率は低めで窒素で3割程度だが、鶏ふんや豚ふんは7割程度である。

これらを見ていただくと分かるように、肥効率も考慮して有機質肥料でも重量比で化成肥料の1~5割程度窒素成分を含んでいる。鶏糞などであれば10aあたり500~1000㎏施用すればJAなどが発行している栽培のしおりに掲載されている元肥の窒素量は十分カバーできるということになる。ただ、化成肥料だと10aあたり100㎏程度で済むところ、その5倍から10倍の施用量が必要になり、労力がかかること、肥料バランスをとることが難しいこと、住宅に近接した農地では臭いなどに配慮が必要なことなど難しい点も多い。

ただし、ならば化成肥料は(循環ということをとりあえず考慮しないとしても)万能かというとそういうわけではない。詳しくは過去のエントリー「化学肥料、何が問題なのか」をご参照いただきたいが、もともと元肥偏重の施肥設計が多いうえに高濃度であるがゆえに過剰に施用してしまうことも多く、植物の根張りなど初期生育に悪影響が出たり、環境負荷が大きくなることもある。

わが国では、有機農業というと環境意識の高い篤農家が手間暇かけてやるイメージが強いが、先ほど述べたようにすくなくとも肥料に関しては(有機JASの規格を満たしていればよいのであれば)、決して大規模経営が不可能なわけではない。何より、ベクトルが全く逆を向いているというわけではないので、そもそも分けて考えるべきものなのである。

それらのことを総合的に考えると、持続的農業を目指すにせよ、やはり有機質資材(肥料)は資源の有効利用や土づくりを考慮した施用とし、それをベースにして化成肥料でバランスをとるというのが理想的であるといういつもの結論になると思われるがいかがだろうか。

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野菜解説シリーズ ~ネギ科ネギ属のお話~

久しぶりの更新です(笑)。Twitterで連ツイしたものの再掲です。トゥギャッターにもまとめてもらったりまとめたりしたので、重複していますが、こちらのみ読んでくださっている方もおられるので、再掲します。基本的にtweetそのままの内容です、手抜きですいません・・・。

それでは、まずはいわゆるネギのお話から。

さて、昨日ネギの分類について話題に上がっていたのでそのあたりを解説してみたい。発端は関東と関西(というか東日本と西日本?)で単に「ネギ」と呼んだ場合に何を指すのか、という違いについての話題だった。関東では葉鞘(軟白)部の長いネギ、関西では葉身(緑)の長いネギになるというわけだ。

ネギの植物としての分類は種子植物門・被子植物亜門・単子葉植物網・ユリ目・ユリ科・ネギ属ということになるが、最近の分類ではヒガンバナ科としてネギ亜科、または単独でネギ科とする場合もある。ユリ科だとしても同じユリ科のアスパラガスに来る害虫のアザミウマはネギアザミウマなので、それもありかもしれない。

ネギ属という分類とすると通常流通していてそれに含まれるのはネギ、タマネギ、ニンニク、リーキ、アサツキ、ワケギ、ラッキョウ、ニラになるだろう。このほか、日本に自生する食用の野生種としてノビルがある。

この中で主にいわゆる薬味として使われるものを取り上げるとネギ、アサツキ、ワケギになると思う。昨日話題になっていたものはこのうち「ネギ」で葉鞘部を土寄せすることで軟白化させ、食用とする関東のネギと緑色の葉身部を使うことの多い関西のネギである。また、両者の中間的な越津ネギというのもある。

まず関東のネギであるが、これは関西では白ネギ、長ネギ、根深ネギなどと呼ばれる。先ほども書いたように、ネギの白い部分(葉鞘部)を土寄せして光を遮ることで長く伸ばし、食用とする。関西の葉ネギに比べ、粘液成分が多く鍋物や串焼きなどに使われることが多い。

関東の白ネギをさらに品種群で分類すると千住ネギ、加賀ネギなどとなり、加賀には有名な下仁田ネギも含まれる。下仁田ネギは葉鞘部の長さはあまりないが、特に太く粘液成分も多く甘みがあり、鍋物に重用される。西洋ネギのリーキは下仁田と形態的には似ているが、葉身が違い、種類としてはあまり近くない。

これに対して、関西のネギは葉鞘部が短く、せいぜい10㎝程度のものが多い。主に刻んで薬味に使われることが多い。品種群としては九条系ということになるが、生産地や用途によってさまざまな太さ、長さがあり、京都の九条ネギ、博多万能ねぎ、高知などの奴ネギ、香川のさぬき青ネギなどが流通している。

代表的な品種群の九条ネギであるが、もともとは大阪の難波で栽培されていた在来種が由来であると考えられている。それが都に優れた形質の野菜が集まるようになって栽培が始まり、特に九条付近で品質の良いネギがとれたことから九条ネギといわれるようになったということである。

青ネギと同じように主に薬味に利用されるネギ属の野菜には、ワケギ、アサツキがある。ワケギはその名のとおり分けつしやすく、種子繁殖をしないので分球した鱗茎(球根)で繁殖する。アサツキも鱗茎による繁殖である。

ワケギは、ワケネギと混同される場合も多いが、ワケネギは分けつしやすい葉ネギの一種であり、タマネギとネギの雑種であると考えられているワケギとは別種である。アサツキも鱗茎での繁殖であるが、ワケギより細く和食での薬味や添え物が主な用途である。極細の葉ネギをアサツキネギとして販売している例もある。

そしてお話は鱗茎を食べるネギ属へ。


野菜解説シリーズ第二弾ということで、前回葉を食べるものが中心だったので、今回は鱗茎(球根)を食べるネギ属野菜について解説してみよう。つまり、タマネギ、ニンニク、ラッキョウなどだ。日本に自生するネギ属の山野草であるノビル(野蒜)も球根を食べるが、それはまた別の機会に。

タマネギはインドや旧ソ連の一部を含む中央アジアが起源とされ、そこからヨーロッパに渡り、さらにアメリカに渡って多様な作型、品種が生まれ、主に明治以降日本に導入、定着したものと考えられている。中央アジアでは原種に近い小玉品種が中心で、南ヨーロッパでは甘味品種、東ヨーロッパでは辛味品種が中心である。

それがアメリカに渡ったのち、多様な気候、土壌に適応した作型、品種が生み出され周年供給が行われるようになった。その後おもに明治以降アメリカから日本に導入され、現在の品種の基礎になった。

明治初期に導入されたアメリカ系黄色品種が北海道ではイエローグローブダンバースが札幌黄に、大阪ではイエローダンバースが泉州黄になった。大正期にフランスから愛知県に導入された白タマネギが定着し、愛知白となったような例外もある。現在はこれらが複雑に交雑し品種は多様化している。

タマネギは肥大期の違いで極早生、早生、中生、晩生に分けられる。鱗茎の肥大は主に長日(日が長くなる)に感応して始まり、早生になるほど短日長で肥大が始まるが、温度にも影響を受け、温度が低いほど必要な日長は長くなる。

タマネギは低温に感応して花芽分化し抽苔(花茎が伸びてくること)するが、このためには低温になるまでにある程度栄養成長(茎葉が大きくなること)していることが条件になる。早植えしたり、大苗を植えるとネギ坊主ができてしまうのはこのためである。

ニンニクの原産地もタマネギと同じく中央アジアと考えられているが、はっきりしていない。エジプトやギリシャなど地中海沿岸では紀元前から栽培されていた記録があり、歴史は古い。地中海沿岸からヨーロッパ各地に広がり、16世紀にはアメリカにも渡ったが、栽培が本格化したのは18世紀からである。

日本では本草和名(918年)という古書に「オオヒル」という名前が記録されていて歴史は古いが栽培は近年まで広がっていかなかった。強壮剤などとしてわずかに利用されていたようだが、においなどが身分の高い人々に好まれなかったのではないかとの説もある。

アジアでの栽培は、まずは中近東から始まったとされ、それが中国を経て日本に導入された。中国では紀元前に西方から入ってきたと考えられ、全域に栽培が広がった。これが中国で普及し日本に導入される過程で寒地系と暖地系品種に分かれたと考えられている。

ニンニクは強壮食品としてよく利用されるが、強壮成分であると考えらえられがちな臭いのもととなるアリシンはビタミンB1を活性化し、殺菌効果もあるが、強壮作用はない。臭いがなかなか消えず、口臭などの原因となったりするのはタンパク質と結びついて消えにくいからである。強壮作用があるのは別の成分である。

某師匠から要望のあったソフトネックとハードネックであるが、ハードネックとは抽苔して花茎が形成され、茎が固くなる品種のことである。自分は日本の品種はすべてハードネックだと思っていたが、調べてみると寒地系品種にソフトネックがあるらしい。

ハードネックというか西日本の品種はすべて葉と根を切って出荷するが、ヨーロッパではソフトネックのにんにくを三つ編みのような編み方をして細長く連ねたガーリックブレイドというものを作り、半乾燥状態でつるして保存する。マルシェなどで軒先につるしてあったりする…ような気がする。

ラッキョウは中国が原産とされ、7世紀には赤、白の2種があったとされる。ニンニクにも出てきた本草和名にも記載があり、日本でも歴史は古いことがわかる。薬用に供されていたという話もある。

日本ではほぼ酢漬けにされ、カレーの付け合わせなどでおなじみである。中国では炒って食用に供され、酢、糖、塩、蜜漬にして保存する。熱帯アジアではカレーに使われ、大量に消費されている。

最後に、その他のネギ属。


ニラは原産地が中国西部といわれている。ニンニクやタマネギと違い、欧米では利用されておらず、東洋独特のネギ属野菜となっている。わが国でもその歴史は古く、9世紀辺りに導入されたと考えられている。もともとは「ミラ」と呼ばれていて、それがなまってニラになったとの説がある。

たびたび登場する本草和名(918)には「古美良」と記されている。わが国でも野生種のニラが田んぼの畔などに自生している。もともとの原生種か、栽培種が野生化したものかは明らかではないが、おそらくは野生化したものと考えられている。

黄ニラはそういう品種ではなく、遮光して栽培することによって軟白化させたものである。通常は一旦普通のニラを栽培し、刈り取って収穫した後の株にトンネルをかぶせて栽培されている。臭いは少なめだが、栄養成分は変わらないので臭いが苦手な人にも食べやすい。岡山県が主要な産地である。

ちなみに観賞用のハナニラは草姿がニラによく似ていて葉の臭いも似ているが、球根植物でハナニラ属という別属であり、葉は有毒である。ただし、野菜のニラの花茎を食べる「花ニラ」もありややこしい。花が咲いていればハナニラは1花茎に1輪が多いので、球状に多数咲くニラとは簡単に区別できる。

シャロット(仏名:エシャロット)は来歴がはっきりしない。他のネギ属と違って、地中海沿岸や古代中国などで栽培されていた記録がないらしい。日本に導入された時期もはっきりしない。ラッキョウに似た草姿で鱗茎と葉身の両方を食用にするが、ラッキョウというよりタマネギの変種と考えられている。

リーキは地中海沿岸に原種が自生しており、その栽培型が現在流通しているものと考えらえている。古代エジプトやギリシャなどで栽培されていた記録があり、日本には明治になって導入され、各地で栽培されていた形跡はあるが、日本型のネギがすでに広がっていたためあまり定着しなかった。

リーキは軟白した葉鞘部を加熱してポトフなどに利用したり、刻んでサラダとして生食されることもある。無臭のジャンボニンニクはこのリーキの変種である。

ネギ属の山野草で食用にされるものではギョウジャニンニク、ノビルなどがある。ギョウジャニンニクはニンニクに似た草姿で宿根性である。アイヌネギ、ヤマビルなどとも呼ばれる。昔の山岳信仰で行者が精をつけるために食用にしたことからこの名がついたとされる。

ギョウジャニンニクは漢方ではかく(草かんむりに各)葱と呼ばれ、滋養強壮剤の特級品とされている。シベリア、中国、朝鮮半島に自生し、わが国では奈良県以北の山間地に分布している。おひたしや酢の物、てんぷらなど幅広く利用できる。

ノビルは東アジアに広く分布し、日本では北海道から沖縄まで見ることができる。田んぼの畔などによく見られ、細ネギやアサツキによく似た草姿でかたまって生えていることが多い。タマネギによく似た鱗茎を形成するが、1~3センチ程度と小さい。主にこの鱗茎を食用とする。


以上、ネギ属の野菜について解説してみた。今後、要望があれば他の野菜についても取り上げていきたい。とりあえずブロッコリー、カリフラワーで要望があるので、それらについてTwitterでまずやってみたいと思っているので、興味があれば私を見つけてフォローしてみて欲しい。気が変わってセロリを取り上げるかもしれないが(爆)

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草勢(樹勢)ってなに?

先日、若いJA職員から質問を受けた。
「すいません、ちょっと質問いいですか?」
「ええよ、何?」
「草勢って言葉あるじゃないですか。それってどういうものですか?」
ふむ。当たり前のように使っていて、きちんとした定義をあまり考えていなかった。はっとしたが、わかりやすくイメージを思い浮かべてもらえばいいかと、そのときに自分がした説明は次のような感じだった。

植物には生育ステージと言うものがあって、それぞれに適正な生育というものがある。そのときにどういう対応をすればいいのかを判断する基本になるのが草勢とか樹勢と言うものになる。
一般的には、強いとか弱いとか表現するが、ステージごとに最適な強さは違う。例えばオクラでは初期に肥料を与えすぎると草勢が強くなって花が付かなかったり、付いた花が落ちてしまったりする。オクラ以外でも果菜類は初期に肥料を効かせすぎると花が付きにくくなって予定通りの収穫開始にはならなくなったりする。しかし、いつまでも肥料を控えていると、今度は植物体が大きく育たず、品質や収量が落ちるので適正な肥料を施すが、この適正な生育を判断するキーワードが「草勢(樹勢)」である。

オクラの場合、草勢はどこで判断するかと言うと発芽後の日数から想定される草丈以外にはまずは葉の形である。肥料が効きすぎ、草勢が強すぎると葉の切れ込みが少なくなり、丸っこい葉になる。もちろん、窒素の効き具合によって植物体全体の葉の色の濃さが変わってくるので、それも重要なポイントになる。ある程度大きくなってくると、花の咲いている高さも判断の対象になる。総勢が弱いと生長点の直下で花が咲き、旺盛だと花までの展開葉が多くなる。これを適正に保つために肥料を調節したり、下の葉を掻き取ったりするのである。

また、ナスでは草勢が弱ってくると短花柱花といって雌しべが短くなり、雄しべの中に隠れてしまう、等が指標になったりする。

といったように、具体的な例を挙げて、植物の生長が旺盛に行なわれているかどうかを見たものが草勢になるが、必ずしも強ければいいというものではないと言うことを理解してもらった。また、生産者には草勢が落ちてくるととかく肥料をやりたがる人がよくいるが、それだけで草勢が回復するとは限らないし、回復したところで逆に病気に罹りやすくなることもあると言うことも話しておいた。

そのときの話には出てこなかったが、例えば以前のエントリーに書いた植物の奇形についても草勢が強すぎるとイチゴの鶏冠果やマーガレットの石化なども出やすい傾向があるし、弱らせるとやたら花をつけようとしてなおさら弱ってしまうということもままある。

以前から何度か書いていることだが、草勢を適切に判断することは上手に農作物を栽培する基本だと思う。自分が栽培している農作物をきちんと観察し、その変化に気づき、適切な対応をする。適切に草勢を判断し、生育ステージにあった対応をきちんとできる人が上手な生産者なのである。

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