農業

窒素固定菌(根粒菌)とはなにか

さて、先日Twitterで根粒菌の話題が出ていたので、それに絡めて植物栄養で窒素の話、特に根粒菌というか窒素固定菌について取り上げてみよう。
窒素関連の話題については「有機物施用とアミノ酸吸収について」や「有機栽培と大規模農業経営は対立する概念? ~有機栽培での窒素供給について~」、「化学肥料、何が問題なのか」などで取り上げてきた。植物栄養の窒素としては十分に取り上げてきたと思うので、ご参照いただきたい。
窒素は地球上に豊富に存在し、大気のおよそ80%を占めている。しかし、それはN2という窒素分子の状態であり、非常に安定している。このため、生物の必須元素でありながらほとんどの動植物は大気中の窒素を直接利用できない。自力では有機物として循環している窒素しか利用できないのである。そこで、大気中の窒素を固定し、主に植物が利用できる形態にできる微生物がおり、それと共生するなどして取り込んでいる。それらの菌を総称して窒素固定菌という。それでは、菌の種類(大きなくくりです)ごとに解説してみよう。

1 根粒菌
グラム陰性の桿菌で、主にマメ科植物の根に寄生して空気中の窒素を還元してアンモニア態窒素に変え、宿主に供給する。鞭毛をもち運動性を有するが、宿主に寄生するとこん棒状などのバクテロイドとなり、宿主から光合成産物を受け取って、これを利用してアンモニア態窒素を供給するという共生関係にある。宿主の植物種に対する特異性から8種類に分類されている。窒素固定菌の中では最も効率がよく、9kg/10a以上の生産能力がある。
このようなことから、マメ科植物は窒素肥料を施用しなくても育つ。営利栽培の大豆などでも他の野菜類に比べると窒素施用量は少ない。また、このような性質を利用してマメ科植物を緑肥作物とすることも多い。秋~春にかけてレンゲソウ(紫雲英・ゲンゲ)を水稲の裏作に作付し、春先にすき込むことで空気中の窒素を取り込み、基肥の代替とすることも行われている。

2 フランキア
アクチノリザル植物(ブナ科やバラ科、ウリ科などの一部)という植物群と共生する窒素固定菌であり、真正細菌の一属で放線菌。放線菌は細菌でありながら多細胞で、菌糸や胞子を形成し、見た目は糸状菌(カビ)のようである。ベクシルという細胞を形成し、そこで窒素固定を行う。

3 アゾトバクター
非共生的に窒素固定を行う細菌。好気的環境において単独で窒素固定を行い、酸素がないと生存できない。窒素固定だけでなく植物ホルモンの産生も行い、土壌に接種することでムギなどの増収効果があることが知られている。作物根圏に定着させる条件は明らかになっていない。

4 ラン藻類
藻類の一種ではなく、細菌と考えられ、近年は藍色細菌と呼ばれている。ラン藻類には窒素固定能を持つものも多く、アカウキクサなどと共生している種類もある。

5 その他
嫌気性菌のクロストロリジウム、光合成細菌の一部、メタン菌の一部、硫酸還元菌の一部などが窒素固定を行う。

6 番外
窒素固定ではないが、植物の根と共生する菌根菌というものもある。様々な高等植物の根と共生し、難溶性のリン酸を可溶化することで植物に供給する。糸状菌で、内部に着生するものと外部に着生するものがある。

以上、窒素固定菌について解説してきたが、菌の種名、分類についてはよくわかっていないので、そのあたりのツッコミはご遠慮願います(苦笑)

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IPM(総合的病害虫管理)ってなんだろう

農業生産の現場にいると、IPMという言葉を最近よく目にするようになった。これはIntegrated Pest Managementの略で、日本語では総合的病害虫管理と訳されることが多い。これは農薬だけに頼らず、利用可能なすべての防除技術をそれぞれ矛盾することなく組み合わせて実用上収益に問題ないレベルまで病害虫を抑制しようというものである、と私は理解している。念のため、FAO(国連食糧農業機関)による定義を引用しておこう。

『Integrated Pest Management (IPM)とは、農作物に対する有害生物制御に応用可能な全ての技術を精緻に考慮し、それらの発生増加を抑制する適切な方法を総合的に組み合わせ、農薬やその他の防除対策の実施は経済的に正当なレベルに保ちつつ、人や環境へのリスクを軽減または最小限に抑えることを意味する。IPMでは、農業生態系撹乱の可能性をより少なくし、有害生物の発生を抑える自然界の仕組みをうまく活かすことにより健全な農作物を育てることが重要視されている。』

ここでは人や環境へのリスクも軽減することが謳われている。ここでお気づきの方も多いと思うが、ことさら農薬の低減を強調したり、食の安全安心の向上に触れたりしていない。もちろん、「人へのリスク軽減」という部分からそう読み取れないこともないが、それらを含んでいるとはしてもそれが目的の主体でないことは明らかだ。
というのも、「食の安全」という意味において、農薬の低減や不使用はあまり意味のあることではない。農薬の使用基準については品目ごとに厳密に残留基準値を超過しないように設定されており、残留基準値自体も健康影響が起こらないように設定されていることは以前から述べている通りである。

ではなぜ、こういう概念が生まれ、普及してきたのだろうか。その歴史については農薬工業会のサイトが詳細に解説している。そちらはそちらでお読みいただくとして、以下で私の個人的見解を述べてみたい。

農薬工業会のサイトで解説されているように、IPMの元となる考え方は化学農薬に頼りすぎた防除体系に対する反省から1960年代から提唱され始めたようだ。ただ、私の印象では少なくとも日本では2000年代に入るまであまり浸透していなかったのではないかと思われる。というのも、農薬の使用基準に対する使用者の違反は平成15年に農薬取締法が改正されるまで罰則はなく、濃度や使用後日数が守られていない事例もあったのではないだろうか。それでも残留基準自体がかなり安全側に振った設定になっているうえ、使用基準も残留基準を超えないように余裕を見て設定されていたため、食品として流通している農作物で直接の健康被害はまずなかったはずである。
それでも平成15年の農薬取締法改正以後、というより平成14年の無登録農薬事件以降、世間(というより流通業者)の目が非常に厳しくなり、農薬使用基準の遵守や化学農薬の使用低減への意識は急激に高まってきたと思う。

  また、その事件等とは関係なく、農薬の安全性向上は農薬メーカーでも取り組まれ、様々な病害虫に対し、より特異性が高く人畜への毒性が低い農薬が開発されており、そういった農薬への移行が進んでいる。また、農薬工業会のサイトにも書いてあったように昔の農薬のように強力で一網打尽できるような殺虫剤は害虫の天敵も撲滅してしまい、かえって害虫を増やすというような現象(リサージェンス)を引き起こすこともあり、また強力であるがゆえに同じ農薬を繰り返し使い、抵抗性も発達させ、効果も現れにくくなってきた。そのような面からもIPMには意義がある。

さて、それでは生産の現場ではどのような技術が用いられているのだろうか。

1 耕種的防除
栽培上の工夫で病害虫を減らす防除技術。土壌改良や耕起などによる土壌の膨軟化や水はけの改善によって植物を健全にするとともに土壌伝染性の病害を減らす、残渣の圃場外への搬出により病原菌などの増殖の防止、輪作によって特定の病害虫の増加を防ぐ、台木や抵抗性品種の使用、それらを総合して栽培環境を適正化することによって防除を行う。

2 物理的防除
物理的障壁を作ったりすることで病害虫の侵入を防ぐ技術。防虫ネットにより害虫の侵入を防ぐ、粘着トラップなどで害虫を捕獲する(これは個体数の低減よりも発生のモニター目的のことが多い)、光が散乱する資材で害虫の飛来を阻害する(UVカットフィルムも含む)、紫外線や緑色光で抵抗性を誘導する、黄色蛍光灯で夜蛾類の飛来を防止する、などである。

3 生物的防除
生物を用いて病害虫の活動を抑制する技術。天敵による捕食で害虫の密度を下げる、拮抗する微生物により病原菌の増殖を抑制する、害虫に対する毒素を持つ微生物資材(菌そのものの場合と抽出毒素の場合がある)により防除する、など。

4 化学的防除
いわゆる化学農薬を使用した防除。殺虫、殺菌のほか誘因や忌避剤も含む。

これらを相互に矛盾しないように使用する、と先ほど述べたが、このあたりのマネジメントが難しいのである。例えば天敵を使用する場合、特にハダニ類の場合は同じダニ類の天敵であるカブリダニを使うことが多いが、当然ながら殺ダニ剤は天敵のカブリダニも殺してしまう場合がある。天敵のカブリダニには効果が少なく、ハダニには十分な効果のある薬剤もあるが、そうすると使える薬剤が限られ、慎重に防除のタイミングを図る必要がある。また、天敵が活動しやすい環境を作る必要もあり、そのためには餌になる害虫もある程度の発生は許容する必要があり、化学的防除への切り替えのタイミングを見誤ると被害が増大することもある。このため、IPMをうまく運用するためには発生密度やその他環境のモニターが欠かせないのである。

今回、IPMの意義や技術内容を紹介しようとして、すごくまとまりのない文章になってしまった。しかし、言いたいことはあらかた吐き出せたと思うので、疑問点や誤りなどご指摘していただき、より理解が深められれば、と思っている。

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「醤油本」

というタイトルのムックが発売されているということをTwitterで相互フォローの方から教えていただいた。それに、直接の知り合いではないが結構身近な人が著者に名を連ねているということもあり、仕事にも関わることなので購入してみることにした。

まずは醤油の歴史や地域性について解説がなされており、一般的に知られている淡口、濃口醤油の違いについて、製法から解説してある。一般に関西では淡口、関東では濃口が主流と簡単に思われいている、というか自分はそんな程度の認識だったが、関西でも多いのは濃口で、淡口の比率が関東よりかなり高いというだけだったのは意外だった。

そのほかにも九州で主流の甘口醤油は香川でも結構流通しているらしく、我が家では甘口醤油はあまり使うことがないのでそういうことも知らなかった。

刺身には刺身用の醤油を使っているが、単純に「溜」を使っているものと思っていたし、溜というものは単に濃口をさらに濃くしたものかと思っていたが、それも違った。製法だけでなく、原材料にもいろいろあり、それらがあの豊かな風味の違いを生み出していたというのは非常に興味深いものであった。というか、自分の無知が恥ずかしくなる思いだった。刺身醤油も単に溜醤油というわけでなく、食材によってはその他の醤油が合う場合も多いようだ。

アミノ酸を添加する混合醸造やその他の添加物についても丁寧に科学的に解説してあり、必ずしも本醸造や昔ながらの長期間の熟成が良いばかりではないときちんと述べている点にも好感が持てた。この辺は100巻以上続いている某グルメ漫画とは違うところだ。

それから、醸造用の木桶復活にも触れられているが、これがまた結構身近で行われていることに驚いた。小豆島のヤマロク醤油というところの社長が取り組んでいるようだが、これはもしかして前回の瀬戸内国際芸術祭の折に小豆島の醤の里で見たものがそうだろうか。また、醤の里に行く機会があったらぜひ訪れてみたいものだ。そのときはツーリングもかねて、私がもう一つ運営しているバイクブログの方で紹介できればと思っている。

蔵元紹介のページでは各地の味わい深い蔵元が紹介されていた。それによると、自宅から結構近いところにおもしろそうな蔵元があるようだ。また是非立ち寄ってみよう。そのほかにもこの本には紹介されていない蔵元が近くにあるはずなので、そこも覗いてみよう。スーパーなどで売っているのを見かけたことはないので、直売してもらえるのなら買ってみたいところだが。

ただ一点だけ気になったのは、遺伝子組み換え大豆に関する記述で、決して否定的に書いているわけではないが、気になる人向けに表示で見分けるための知識が紹介されており、少々もやもやする気分にされてしまった。ほんのわずかではあるが、マイナスイメージにつながりそうな書き方をされていたからである。

ともあれ、全体としては非常に読みやすく、内容も好感の持てるものだった。こうした調味料に興味のある方、大メーカーの大量生産品や添加物が気になる方、地域ごとの、地元の醤油事情が知りたい方は是非手にとって読んでみることをおすすめしたい。
ソースでもこういう本が出ることを期待している(某氏に向けて)。

本の出版情報を記載していなかったので、追記しておきます。

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齋藤訓之著「有機野菜はウソをつく」について

Food Watch Japanを運営している齋藤訓之さんが「有機野菜はウソをつく」という非常に刺激的な表題の著書を出された。この表題から想像される内容を自分なりに予想しながら読み進めたが、中身は表題ほど攻撃的ではなく、極めて常識的である。それでも、この内容を書籍という形で世に出すのは、たとえば自分が著者であったらできるかというとかなり勇気がいる(シャレではありません)。そういった点で齋藤さんのその意気には敬意を表したい。

第1章は有機農業の定義から、その存在の意義、中身について語られている。その内容は我々農業の技術者、中でも土壌肥料や病害虫関係の技術者にとっては常識ともいえる内容であった。ただ、環境保全型農業の推進を掲げている行政の中で、そこに関わっている立場からすると思ってはいてもなかなか口には出せない。それは以前のエントリーでも述べたとおりだ。なので、齋藤さんのこの本が世に出たことは非常にありがたいのである。

ともかく、自分としても以前から「自然だから美味しいって本当だろうか」や「化学肥料、何が問題なのか」などで述べてきたように農業はけっして自然ではないし、自然だからおいしく、安全安心なのだという考え方には異議を唱えてきた。
その点において、第1章は論点をきちんと網羅してコンパクトに述べており、理解しやすいと思う。ただ、この「理解しやすい」は自分のような農業の技術者でない場合にもあてはまるかどうかは自信がないので、様々な意見が出てくる可能性はあると思う。

第2章は慣行農法の元肥偏重主義への疑問の提示からその性質をよく知らないまま堆肥を使用することなどについての問題点の指摘などが主体になっており、それに対比する形でブドウなどで取り入れられている栄養周期理論が取り上げられている。

元肥に極端に偏った慣行農法の、特に野菜の施肥体系については問題点の指摘については全くその通りだが、現在の日本の農業の現状(狭い農地面積で人手で集約的に行うなど)からすれば労力と収量・品質などのバランスを考えた効率からすると元肥主体が今のところベターなのである。もちろん本書ではそいういった点にも理解を示してはいる。とにかく、技術的な問題点を示しながら、どのように進むべきなのかが直接書いてあるわけではないが、どのように考えていくべきなのかのヒントがそこにあるのではないだろうか。

第3章は有機農業がどのように定着してきたかをメインに、近代農業の歴史みたいな話だった。有機農業に対する認識はほぼ現場の実感に近いと思う。特にコーデックスや有機JAS成立以前は生産者も、流通業者も「有機農産物」に対する認識が甘く、何が有機農産物なのかはっきりしない中でなんとなく良いイメージで世の中に浸透していたのではないだろうか。一般の人はほとんどの場合有機JAS法などはその中身を知らないためにそういう変化を知らないままのように思えるが・・・。

第4章では安全安心は有機であるかどうかではなく、どのような管理体系を組むのか、どういうところに注意すべきなのか重要なのだと述べている。頻繁に自分の畑をみて、植物の状態を細かく把握し、変化を見逃すことなく対応できる人が収量も品質も確保できるのだ。

私も以前から主張しているように、技術のある生産者の農作物は有機であろうとそうでなかろうと美味いものは美味いし、技術のない人のものはたいがいまずいのである。ただ、ややこしいのはこの「技術」にはセンスも含まれるというのが私個人の感想である。鍛えて伸びる部分ももちろんあるが、センスのある人とない人(考え方を整理できるかできないかも含めて)の間には越えられない壁はあると思う。

第5章では、消費者としてどのようなことに気を付けて農作物を選ぶべきかということについて述べられている。調和がとれているものは見た目にも調和がとれている、という視点はなかなか面白い。言われてみればその通りなのだが、説明の仕方についてはこういうやり方もあるのかと感心した。

一点気になったのはチップバーンをカリウムの欠乏としているところである。もちろん欠乏症状として下位葉から出始め、縁が枯れるようになってくるというのも間違いではないが、自分の認識としてチップバーンと言えばカルシウムの欠乏症で新葉から出てくることが多く、葉の先端が枯れこんでひきつれたようになる、というものである。手元にある資料を調べてみたが、チップバーンはほぼカルシウム欠乏が原因と書いてあるが…カリウム欠乏による下位葉の枯れこみもチップバーンと呼ぶ場合もあるかもしれないので、ここはちょっと保留である。

ともあれ、全体としてはおおむね同意できるところが多く、この内容を世に問うてくれたところは大いに評価したい。これだけで流れが変わるとは思えないが、きっかけの一つになってもらえるよう、私も自分の立場から働きかけてみたいと思う。

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有機栽培と大規模農業経営は対立する概念? ~有機栽培での窒素供給について~

さて、こないだ某所で有機栽培における窒素供給の観点から、有機栽培は大規模経営には向かないのか、といった話が持ち上がっていたので、そのあたりどういう風にまとまるかは自分でも読めないが、取り上げてみたい。なお、有機栽培の定義からすると農薬の使用についても関わってくるが、今回は肥料成分、中でも窒素成分についての話に絞って論じてみたい。

とりあえず、関連する過去記事を上げておく。

窒素を施用しないで炭素のみ循環させて行う農法がある。その中で、炭素を循環させることの意味についてお話しています。

初期のエントリーで、一文が長く読みにくいですが、とりあえず有機農法の定義について冒頭だけお読みいただければ。

-引用開始-
有機農法と慣行農法の収量の差がこれまで推定されていたより少ないと主張する論文について。内容をよく見ると有機農法だけローテーションしていたりと比較のしかたがおかしいところが多い。窒素必要量の多い作物での有機農法の不利は圧倒的な事実である。収量を環境とは関係がないと主張しているが、それこそが持続可能な農業にとっては重要な問題である。さらに有機農業と大規模工業的農業は対立概念ではない。大規模有機農業も小規模環境農家もいる。そもそも圧倒的に慣行栽培が多く米国では有機栽培は作物で0.8%畜産で0.5%のみ。しかも有機のうち大規模(500エーカー(2 km²)以上)のほうが多い(60/40)。
(ちなみに日本の農家の平均耕作面積が2ヘクタールで500エーカーの100分の1)
-引用終了-

有機農法の定義から言えば、十分な窒素施用量を確保することは実はそれほど難しいことではない。有機質資材由来であれば窒素成分をいくら施用しようともそれは有機農法の範疇になるからである。鶏糞や菜種油粕、米ぬかなど比較的窒素成分量の多い有機質資材はいくらでも存在する。では、なぜ窒素必要量の多い作物では有機栽培は不利なのか?
小規模であれば、さほど不利ではないと思う。必要十分な肥料さえ確保できていればまず問題はない。作物の生育を丁寧に観察し、施肥量などを適切に調節したりなど手間と費用を考えなければ品質収量を確保することは十分に可能だからである。

それが大規模になれば事情は変わってくる。安定した品質の有機質肥料を大量に確保することは難しいし(規模にもよるが、そもそも有機質肥料等の生産や品質が安定しない)、有機質肥料は目的とする作物の窒素量の確保だけでなく、他の養分のバランスも、作ろうとしている品目にとっていいものとは限らないからである。

それでは、よく使われる有機質肥料や堆肥の含有成分はどのくらいだろうか。一覧にしてみよう。一応これらは保証成分として表記されているものをおおよそでまとめてあるので、「なし」となっているものも本当に0%というわけではない。なお、家畜ふん堆肥はおがくずなどの副資材を含まない場合を想定している。

1) 魚かす 窒素5~8%、リン酸5~8%、加里なし
2) 窒素質グアノ 窒素13~15%、リン酸8~9%、加里1~2%
3) リン酸グアノ 窒素1%以下、リン酸27~30%、加里1%未満
4) 菜種油粕 窒素5~6%、リン酸2%、加里1%
5) ダイズ油粕 窒素6~7%、リン酸1~2%、加里1~2%
6) 牛ふん堆肥 窒素2.3%、リン酸4.1%、加里0.4%
7) 豚ふん堆肥 窒素3.8%、リン酸5.4%、加里5%
8) 鶏ふん堆肥 窒素3.1%、リン酸8%、加里4%

(参考:農文協 肥料便覧第5版 伊達昇・塩崎尚郎編著 若干数字は丸めてあります)
これは、含有量での表記なので、植物がすぐに利用できる成分の割合(肥効率という)はこれぞれ違ってくるので注意が必要である。例えば、同じ家畜ふん堆肥でも牛ふん堆肥は炭素率(炭素/窒素の重量比)が高いため、肥効率は低めで窒素で3割程度だが、鶏ふんや豚ふんは7割程度である。

これらを見ていただくと分かるように、肥効率も考慮して有機質肥料でも重量比で化成肥料の1~5割程度窒素成分を含んでいる。鶏糞などであれば10aあたり500~1000㎏施用すればJAなどが発行している栽培のしおりに掲載されている元肥の窒素量は十分カバーできるということになる。ただ、化成肥料だと10aあたり100㎏程度で済むところ、その5倍から10倍の施用量が必要になり、労力がかかること、肥料バランスをとることが難しいこと、住宅に近接した農地では臭いなどに配慮が必要なことなど難しい点も多い。

ただし、ならば化成肥料は(循環ということをとりあえず考慮しないとしても)万能かというとそういうわけではない。詳しくは過去のエントリー「化学肥料、何が問題なのか」をご参照いただきたいが、もともと元肥偏重の施肥設計が多いうえに高濃度であるがゆえに過剰に施用してしまうことも多く、植物の根張りなど初期生育に悪影響が出たり、環境負荷が大きくなることもある。

わが国では、有機農業というと環境意識の高い篤農家が手間暇かけてやるイメージが強いが、先ほど述べたようにすくなくとも肥料に関しては(有機JASの規格を満たしていればよいのであれば)、決して大規模経営が不可能なわけではない。何より、ベクトルが全く逆を向いているというわけではないので、そもそも分けて考えるべきものなのである。

それらのことを総合的に考えると、持続的農業を目指すにせよ、やはり有機質資材(肥料)は資源の有効利用や土づくりを考慮した施用とし、それをベースにして化成肥料でバランスをとるというのが理想的であるといういつもの結論になると思われるがいかがだろうか。

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野菜解説シリーズ ~ネギ科ネギ属のお話~

久しぶりの更新です(笑)。Twitterで連ツイしたものの再掲です。トゥギャッターにもまとめてもらったりまとめたりしたので、重複していますが、こちらのみ読んでくださっている方もおられるので、再掲します。基本的にtweetそのままの内容です、手抜きですいません・・・。

それでは、まずはいわゆるネギのお話から。

さて、昨日ネギの分類について話題に上がっていたのでそのあたりを解説してみたい。発端は関東と関西(というか東日本と西日本?)で単に「ネギ」と呼んだ場合に何を指すのか、という違いについての話題だった。関東では葉鞘(軟白)部の長いネギ、関西では葉身(緑)の長いネギになるというわけだ。

ネギの植物としての分類は種子植物門・被子植物亜門・単子葉植物網・ユリ目・ユリ科・ネギ属ということになるが、最近の分類ではヒガンバナ科としてネギ亜科、または単独でネギ科とする場合もある。ユリ科だとしても同じユリ科のアスパラガスに来る害虫のアザミウマはネギアザミウマなので、それもありかもしれない。

ネギ属という分類とすると通常流通していてそれに含まれるのはネギ、タマネギ、ニンニク、リーキ、アサツキ、ワケギ、ラッキョウ、ニラになるだろう。このほか、日本に自生する食用の野生種としてノビルがある。

この中で主にいわゆる薬味として使われるものを取り上げるとネギ、アサツキ、ワケギになると思う。昨日話題になっていたものはこのうち「ネギ」で葉鞘部を土寄せすることで軟白化させ、食用とする関東のネギと緑色の葉身部を使うことの多い関西のネギである。また、両者の中間的な越津ネギというのもある。

まず関東のネギであるが、これは関西では白ネギ、長ネギ、根深ネギなどと呼ばれる。先ほども書いたように、ネギの白い部分(葉鞘部)を土寄せして光を遮ることで長く伸ばし、食用とする。関西の葉ネギに比べ、粘液成分が多く鍋物や串焼きなどに使われることが多い。

関東の白ネギをさらに品種群で分類すると千住ネギ、加賀ネギなどとなり、加賀には有名な下仁田ネギも含まれる。下仁田ネギは葉鞘部の長さはあまりないが、特に太く粘液成分も多く甘みがあり、鍋物に重用される。西洋ネギのリーキは下仁田と形態的には似ているが、葉身が違い、種類としてはあまり近くない。

これに対して、関西のネギは葉鞘部が短く、せいぜい10㎝程度のものが多い。主に刻んで薬味に使われることが多い。品種群としては九条系ということになるが、生産地や用途によってさまざまな太さ、長さがあり、京都の九条ネギ、博多万能ねぎ、高知などの奴ネギ、香川のさぬき青ネギなどが流通している。

代表的な品種群の九条ネギであるが、もともとは大阪の難波で栽培されていた在来種が由来であると考えられている。それが都に優れた形質の野菜が集まるようになって栽培が始まり、特に九条付近で品質の良いネギがとれたことから九条ネギといわれるようになったということである。

青ネギと同じように主に薬味に利用されるネギ属の野菜には、ワケギ、アサツキがある。ワケギはその名のとおり分けつしやすく、種子繁殖をしないので分球した鱗茎(球根)で繁殖する。アサツキも鱗茎による繁殖である。

ワケギは、ワケネギと混同される場合も多いが、ワケネギは分けつしやすい葉ネギの一種であり、タマネギとネギの雑種であると考えられているワケギとは別種である。アサツキも鱗茎での繁殖であるが、ワケギより細く和食での薬味や添え物が主な用途である。極細の葉ネギをアサツキネギとして販売している例もある。

そしてお話は鱗茎を食べるネギ属へ。


野菜解説シリーズ第二弾ということで、前回葉を食べるものが中心だったので、今回は鱗茎(球根)を食べるネギ属野菜について解説してみよう。つまり、タマネギ、ニンニク、ラッキョウなどだ。日本に自生するネギ属の山野草であるノビル(野蒜)も球根を食べるが、それはまた別の機会に。

タマネギはインドや旧ソ連の一部を含む中央アジアが起源とされ、そこからヨーロッパに渡り、さらにアメリカに渡って多様な作型、品種が生まれ、主に明治以降日本に導入、定着したものと考えられている。中央アジアでは原種に近い小玉品種が中心で、南ヨーロッパでは甘味品種、東ヨーロッパでは辛味品種が中心である。

それがアメリカに渡ったのち、多様な気候、土壌に適応した作型、品種が生み出され周年供給が行われるようになった。その後おもに明治以降アメリカから日本に導入され、現在の品種の基礎になった。

明治初期に導入されたアメリカ系黄色品種が北海道ではイエローグローブダンバースが札幌黄に、大阪ではイエローダンバースが泉州黄になった。大正期にフランスから愛知県に導入された白タマネギが定着し、愛知白となったような例外もある。現在はこれらが複雑に交雑し品種は多様化している。

タマネギは肥大期の違いで極早生、早生、中生、晩生に分けられる。鱗茎の肥大は主に長日(日が長くなる)に感応して始まり、早生になるほど短日長で肥大が始まるが、温度にも影響を受け、温度が低いほど必要な日長は長くなる。

タマネギは低温に感応して花芽分化し抽苔(花茎が伸びてくること)するが、このためには低温になるまでにある程度栄養成長(茎葉が大きくなること)していることが条件になる。早植えしたり、大苗を植えるとネギ坊主ができてしまうのはこのためである。

ニンニクの原産地もタマネギと同じく中央アジアと考えられているが、はっきりしていない。エジプトやギリシャなど地中海沿岸では紀元前から栽培されていた記録があり、歴史は古い。地中海沿岸からヨーロッパ各地に広がり、16世紀にはアメリカにも渡ったが、栽培が本格化したのは18世紀からである。

日本では本草和名(918年)という古書に「オオヒル」という名前が記録されていて歴史は古いが栽培は近年まで広がっていかなかった。強壮剤などとしてわずかに利用されていたようだが、においなどが身分の高い人々に好まれなかったのではないかとの説もある。

アジアでの栽培は、まずは中近東から始まったとされ、それが中国を経て日本に導入された。中国では紀元前に西方から入ってきたと考えられ、全域に栽培が広がった。これが中国で普及し日本に導入される過程で寒地系と暖地系品種に分かれたと考えられている。

ニンニクは強壮食品としてよく利用されるが、強壮成分であると考えらえられがちな臭いのもととなるアリシンはビタミンB1を活性化し、殺菌効果もあるが、強壮作用はない。臭いがなかなか消えず、口臭などの原因となったりするのはタンパク質と結びついて消えにくいからである。強壮作用があるのは別の成分である。

某師匠から要望のあったソフトネックとハードネックであるが、ハードネックとは抽苔して花茎が形成され、茎が固くなる品種のことである。自分は日本の品種はすべてハードネックだと思っていたが、調べてみると寒地系品種にソフトネックがあるらしい。

ハードネックというか西日本の品種はすべて葉と根を切って出荷するが、ヨーロッパではソフトネックのにんにくを三つ編みのような編み方をして細長く連ねたガーリックブレイドというものを作り、半乾燥状態でつるして保存する。マルシェなどで軒先につるしてあったりする…ような気がする。

ラッキョウは中国が原産とされ、7世紀には赤、白の2種があったとされる。ニンニクにも出てきた本草和名にも記載があり、日本でも歴史は古いことがわかる。薬用に供されていたという話もある。

日本ではほぼ酢漬けにされ、カレーの付け合わせなどでおなじみである。中国では炒って食用に供され、酢、糖、塩、蜜漬にして保存する。熱帯アジアではカレーに使われ、大量に消費されている。

最後に、その他のネギ属。


ニラは原産地が中国西部といわれている。ニンニクやタマネギと違い、欧米では利用されておらず、東洋独特のネギ属野菜となっている。わが国でもその歴史は古く、9世紀辺りに導入されたと考えられている。もともとは「ミラ」と呼ばれていて、それがなまってニラになったとの説がある。

たびたび登場する本草和名(918)には「古美良」と記されている。わが国でも野生種のニラが田んぼの畔などに自生している。もともとの原生種か、栽培種が野生化したものかは明らかではないが、おそらくは野生化したものと考えられている。

黄ニラはそういう品種ではなく、遮光して栽培することによって軟白化させたものである。通常は一旦普通のニラを栽培し、刈り取って収穫した後の株にトンネルをかぶせて栽培されている。臭いは少なめだが、栄養成分は変わらないので臭いが苦手な人にも食べやすい。岡山県が主要な産地である。

ちなみに観賞用のハナニラは草姿がニラによく似ていて葉の臭いも似ているが、球根植物でハナニラ属という別属であり、葉は有毒である。ただし、野菜のニラの花茎を食べる「花ニラ」もありややこしい。花が咲いていればハナニラは1花茎に1輪が多いので、球状に多数咲くニラとは簡単に区別できる。

シャロット(仏名:エシャロット)は来歴がはっきりしない。他のネギ属と違って、地中海沿岸や古代中国などで栽培されていた記録がないらしい。日本に導入された時期もはっきりしない。ラッキョウに似た草姿で鱗茎と葉身の両方を食用にするが、ラッキョウというよりタマネギの変種と考えられている。

リーキは地中海沿岸に原種が自生しており、その栽培型が現在流通しているものと考えらえている。古代エジプトやギリシャなどで栽培されていた記録があり、日本には明治になって導入され、各地で栽培されていた形跡はあるが、日本型のネギがすでに広がっていたためあまり定着しなかった。

リーキは軟白した葉鞘部を加熱してポトフなどに利用したり、刻んでサラダとして生食されることもある。無臭のジャンボニンニクはこのリーキの変種である。

ネギ属の山野草で食用にされるものではギョウジャニンニク、ノビルなどがある。ギョウジャニンニクはニンニクに似た草姿で宿根性である。アイヌネギ、ヤマビルなどとも呼ばれる。昔の山岳信仰で行者が精をつけるために食用にしたことからこの名がついたとされる。

ギョウジャニンニクは漢方ではかく(草かんむりに各)葱と呼ばれ、滋養強壮剤の特級品とされている。シベリア、中国、朝鮮半島に自生し、わが国では奈良県以北の山間地に分布している。おひたしや酢の物、てんぷらなど幅広く利用できる。

ノビルは東アジアに広く分布し、日本では北海道から沖縄まで見ることができる。田んぼの畔などによく見られ、細ネギやアサツキによく似た草姿でかたまって生えていることが多い。タマネギによく似た鱗茎を形成するが、1~3センチ程度と小さい。主にこの鱗茎を食用とする。


以上、ネギ属の野菜について解説してみた。今後、要望があれば他の野菜についても取り上げていきたい。とりあえずブロッコリー、カリフラワーで要望があるので、それらについてTwitterでまずやってみたいと思っているので、興味があれば私を見つけてフォローしてみて欲しい。気が変わってセロリを取り上げるかもしれないが(爆)

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草勢(樹勢)ってなに?

先日、若いJA職員から質問を受けた。
「すいません、ちょっと質問いいですか?」
「ええよ、何?」
「草勢って言葉あるじゃないですか。それってどういうものですか?」
ふむ。当たり前のように使っていて、きちんとした定義をあまり考えていなかった。はっとしたが、わかりやすくイメージを思い浮かべてもらえばいいかと、そのときに自分がした説明は次のような感じだった。

植物には生育ステージと言うものがあって、それぞれに適正な生育というものがある。そのときにどういう対応をすればいいのかを判断する基本になるのが草勢とか樹勢と言うものになる。
一般的には、強いとか弱いとか表現するが、ステージごとに最適な強さは違う。例えばオクラでは初期に肥料を与えすぎると草勢が強くなって花が付かなかったり、付いた花が落ちてしまったりする。オクラ以外でも果菜類は初期に肥料を効かせすぎると花が付きにくくなって予定通りの収穫開始にはならなくなったりする。しかし、いつまでも肥料を控えていると、今度は植物体が大きく育たず、品質や収量が落ちるので適正な肥料を施すが、この適正な生育を判断するキーワードが「草勢(樹勢)」である。

オクラの場合、草勢はどこで判断するかと言うと発芽後の日数から想定される草丈以外にはまずは葉の形である。肥料が効きすぎ、草勢が強すぎると葉の切れ込みが少なくなり、丸っこい葉になる。もちろん、窒素の効き具合によって植物体全体の葉の色の濃さが変わってくるので、それも重要なポイントになる。ある程度大きくなってくると、花の咲いている高さも判断の対象になる。総勢が弱いと生長点の直下で花が咲き、旺盛だと花までの展開葉が多くなる。これを適正に保つために肥料を調節したり、下の葉を掻き取ったりするのである。

また、ナスでは草勢が弱ってくると短花柱花といって雌しべが短くなり、雄しべの中に隠れてしまう、等が指標になったりする。

といったように、具体的な例を挙げて、植物の生長が旺盛に行なわれているかどうかを見たものが草勢になるが、必ずしも強ければいいというものではないと言うことを理解してもらった。また、生産者には草勢が落ちてくるととかく肥料をやりたがる人がよくいるが、それだけで草勢が回復するとは限らないし、回復したところで逆に病気に罹りやすくなることもあると言うことも話しておいた。

そのときの話には出てこなかったが、例えば以前のエントリーに書いた植物の奇形についても草勢が強すぎるとイチゴの鶏冠果やマーガレットの石化なども出やすい傾向があるし、弱らせるとやたら花をつけようとしてなおさら弱ってしまうということもままある。

以前から何度か書いていることだが、草勢を適切に判断することは上手に農作物を栽培する基本だと思う。自分が栽培している農作物をきちんと観察し、その変化に気づき、適切な対応をする。適切に草勢を判断し、生育ステージにあった対応をきちんとできる人が上手な生産者なのである。

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【告知】第2回ひやあつカフェ開催します

テーマ:農と自然の関わりについて
話題提供:がん(主催者)
日時:平成26年8月30日(土) 14:00〜
場所:讃岐漆芸美術館 カフェコーナー
   香川県高松市上福岡町2017番地4
   087−802−2010
 http://sanukisitsugei-gallery.at.webry.info/ 
人数:10人程度

参加費は頂きませんが、カフェコーナーにて飲み物を一品ご注文頂くこと、カフェ終了後に漆芸美術館を必ず見学頂くことが条件になります。
参加ご希望の方はこの記事にコメントをおねがいします。

讃岐漆芸美術館は駐車場が少ないので、できるだけ公共の交通機関でお越し頂くか、乗り合わせでお願いします。場合によっては、主催者で最寄り駅より送迎します。

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農機を買うこと

今日、農協職員の方と話していて気が付いたことがある。農家の中には、一定の割合で農業にワクワク感を感じている人がいて(ここまではこの仕事に関わった当初からそう思っていた)、さらにその一定の割合にそのワクワク感が農業機械に向いている人がいるということだ。

その農協職員の方曰く、
「いや~、若い頃は車庫に収まる車やバイクを見て悦に入っていたんですが、近頃は農業機械にお金がかかって、車庫はトラクターや管理機なんかでいっぱいなんですわ。困ったもんです」
とのこと。しかし、口では困った困ったと言いながら、顔はぜんぜん困っていない。むしろ他の話をしているときに比べて思いっきり輝いているのだ。
「今度、組合員さんに新しい管理機とセットでアタッチメントの表層攪拌機をお勧めするんですが、自分も買いますよ!お勧めする以上、自分も持ってないと!」
どう見ても、自分が真っ先に試したい、その機械を車庫のコレクションに加えて眺めたい、そして使い勝手などを語り合いたい、と顔にはっきり書いてある。
「これで皆さんの作業が便利になって、ブロッコリーの面積が増えたら農協職員としてうれしいです!」
いや、この人の性格からしてきっと心からそう思っているとは思う。しかし、である。あんた自分が欲しいというのが一番やろ(笑)。自分では気づいてへんかもしれへんけど。

この仕事をし始めてから、やたら農機を買い換えたり、新製品を試したりする人が一定いることには気づいていた。もしかしたら、とも思っていた。しかし、これではっきり確信が持てた。

私がバイクや車を欲しがり、これから買おうかと色々物色しているときもすごく楽しく、また実際ツーリングに出かけるのも楽しく、ブログを書いて、他人とその情報を共有したりしてその喜びはさらに増していく。磨いてきれいになった車体を見て満足する。そういったものと、農業機械を趣味のように扱う人の気持ちはまったく同じなのだ。新しい機械が発売され、それによって自分のライフスタイルが変わる夢を見させてくれる。そして、購入を決意するまでそういったライフスタイルの変わった様をシミュレートしたりしてさらにワクワクするのだ。

そして、入手したら今度は仲間と機械談義。
「今度の管理機はえらい土が上がるやないか~」
「ホンマやのう。ワシも今度これにするかのお?」
おわかりのように、内容が農作業になっただけでバイクやクルマ談義と同じである。私も農家であれば、そういうタイプになっていたに違いない。

結局、何が言いたいのかというと、オッサンって結局そういう生き物よね!
↑根拠なしの決めつけ。てか、女性にだってそういう人いますよね?(文体が変わってるぞ)

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炭素を循環させるってどういうこと?

先日、ツイッターで「炭素循環農法ってなに?」という会話がされていた。普通に循環型農業をやっていると結果として炭素を循環させることになるのだが、わざわざそういった「農法」を名乗る以上、何か特別なことがあるのかと思って調べてみたら、基本的には炭素を循環させることでその他の肥料を施用しなくても栽培できる、という技術らしい。

もちろん農業というのは物質的な収奪を行なっている以上、無肥料(成分)というのはありえない。肥料を施用しない代わり、何かが田畑に入っているはずではある。そのあたり、ツッコミどころはあるのだが、どうも炭素循環農法にもいくつか流派があり、さらに個別に色々な工夫があるので、それぞれを個別にどうこう言うのは非常に難しい。そこで、とりあえず今回は「炭素を循環させることの意味」についてのみ解説したいと思う。

炭素は植物にとって、というより生物にとって最も基本的といっていい元素だろう。「有機物」という言葉を説明するとき、「炭素を含んでいるもの」というとかなりの確率で当てはまると思う。例えば植物にとっては水素、酸素と結合して多糖類として繊維となったり、少し小さくなってでんぷんなどになったり、さらに小さくなって単糖(ブドウ糖や果糖など)になったりして様々な形態で必須のものとして存在する。要するに、植物にとっては体を構成する最も基本的で、大量に必要な元素ということになる。

しかし、植物は「光合成」という手段を使って、光エネルギーを利用して大気中の炭素を取り込むことが出来る。ではなぜわざわざ栽培者の手で循環させねばならないのだろうか。答えの1つは、以前も説明したことがある土作りである。

土作りは、主に有機物を施用することによって土壌の物理性や化学性を改善するということになるが、そのうち、最も重要な役割を担っているのが腐植酸(フミン酸)である。土壌中に施用された植物体(堆肥化されてからのことが多い)が土壌微生物に分解され、最終的に残ったものが腐植酸で、濃いこげ茶色で粘性が高い状態で土壌中に存在する。これが細かい土壌粒子同士をくっつけて団粒構造を作り、土壌の排水性、保水性といった物理性を改善すること、陰荷電を持っているため、陽イオンである塩基類(石灰、苦土、加里など)を保持して緩衝力を高めることは以前のエントリーで説明したとおりである。

その腐植酸であるが、元素の組成としては半分以上が炭素であり、あとは多い順に酸素、水素、窒素などを含む。これが先ほども述べたように、土作りに大きく関与するが、その構成元素として炭素が最大であるので、主に植物体を土壌に還元して炭素を供給、土壌の炭素率を向上する事は大きな意味を持つ。

先ほど、腐植酸は土壌で有機物が分解され、最終的に残ったものと書いたが、もちろん腐植酸もゆっくりではあるが分解され、二酸化炭素や水などになり、自然循環の環に戻っていくのである。

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