農業

最近流行りの「スマート農業」って何でしょう?

最近、スマート農業という言葉をよく耳にするようになりました。これは、我々のような農業関係者以外ではそうでもないかもしれませんが、これから先、特に日本のような特殊な環境で農業を持続的なものとしていくために、また世界的に見ればまだまだ増加している人口をこれから先も支え続けていくために必須になってくるかもしれませんので、一般の方にも知っていただきたいと思ったのです。

 

さて、この「スマート農業」という言葉を積極的に推進しているのは農林水産省ですので、そのスマート農業のサイトを見てみることにしましょう。しかし、PDFばっかりで見づらいことこの上ありません(個人的感想です)。なので、定義を簡単に理解するためにも消費者相談(FAQ)のページも見てみましょう。

 

さて、そこでの定義をここにも引用するとします。農林水産省の「『スマート農業の実現に向けた研究会』検討結果の中間取りまとめ」(平成 26 年3月公表)によれば、「ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業」ということになります。具体的には次の通りになります。

 

1 超省力・大規模生産を実現 

トラクター等の農業機械の自動走行の実現により、規模限界を打破

→トラクター作業を自動化することによって、作業時間自体の短縮だけでなく、空いた時間を利用してその他の作業の効率化を図るということも考えられます。戦後、農業機械の登場などによって生産者の肉体的負担も減り、作業時間等も大幅に短縮されましたが、実現の可能性はともかく、それ以来のおおきな変革を求めていると言えます。

 

2 作物の能力を最大限に発揮 

センシング技術や過去のデータを活用したきめ細やかな栽培(精密農業)により、従来にない多収・高品質生産を実現 

→従来は生産者の「勘」に頼っていた部分をデータ化し、ICTなどを活用したセンサー、カメラ画像のAIによる診断などを通して収穫時期や病害虫の発生予測を行うものです。収穫適期や防除のタイミングを逃すことなく、また特に加工用などで業者との取引がある場合、正確な収穫予測でそれらの契約を有利に進めることができるようにしたい、というものです。

 

3 きつい作業、危険な作業から解放 

収穫物の積み下ろし等重労働をアシストスーツにより軽労化、負担の大きな畦畔等の除草作業を自動化 

→地面に置いた重量野菜などのコンテナをアシストスーツなどで身体への負担を少なく持ち上げ、持ち運びができるようになります。コンピューター制御によるモーター駆動の高度なものから、ばねの力でひじなどを支え、長時間作業姿勢を保つ場合に、負担を軽減する簡易なものまで研究されています。

 

4 誰もが取り組みやすい農業を実現 

農機の運転アシスト装置、栽培ノウハウのデータ化等により、経験の少ない労働力でも対処可能な環境を実現 

→果樹や果菜類などの整枝、剪定作業など残す枝、切る枝の選定などは経験を積まないと難しいものですが、高度にデータ化しマニュアル化することで、初心者でも成果を上げやすくするものです。

 

5 消費者・実需者に安心と信頼を提供 

生産情報のクラウドシステムによる提供等により、産地と消費者・実需者を直結

→2のところでも触れましたが、生産、収穫予測や栽培の様子などをクラウドシステムによって消費者・実需者でもアクセスできるようにすることで、相互の信頼感を醸成します。

 

「スマート農業」というとすぐICTに結び付けがちです。もちろんICTがその大きな根幹をなすことは間違いありません。しかし、問題点を整理し、従来技術の枠組みの中で細かい工夫などを積み重ねて効率化を図っていく(この辺りGAPにもつながる部分かと思います)のも「スマート農業」だと思っています。

 

以上、「理想的な話」ばかり紹介しました。それほど簡単に話が進むとは思えませんが、農業が職業として魅力を失っている(ように多くの人には見える)現状では、農業の世界もその姿を変えていく必要はあると思います。もちろんすべての農業者がこっちの方向を向く必要はないと思いますし、現行?農業にもまだまだ魅力を生み出す余地はあると思っています。

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植物のワクチン接種による免疫獲得とは?

植物のワクチン接種による免疫獲得について、ツイッターで自分の記憶で語ったことにちょっとした(ちょっとではないかも)誤謬があり、相互フォローのBernardo Domorno(@Dominique_Domon)さんに間違いをご指摘いただいたのでいろいろ調べてみました。そこで、それらをできるだけわかりやすく解説してみたいと思います。ただ、分子生物学については、それを利用することもある立場にありながら、専門的には勉強していなかったため、簡略化した説明に間違いがないか自信がありません。そのあたり、専門家からのツッコミがあると嬉しいです。

昨年末、ツイッターで流れてきた「赤ちゃんレベルの「ゲノム編集」の入門の話」というみねそうさんのnoteを読んで、以前何かのセミナーで聞いた植物のワクチンによる免疫の獲得とメカニズムが似ているのではないかと思い、そのようなことをツイッターでつぶやいたところ、冒頭でも話したように相互フォローのBernardo Domornoさんから「植物のは弱毒ウイルスなので、違うと思う」旨のツッコミをいただきました。そこで、自分の記憶に間違いがあった可能性もあるし、間違ってはいなくても全然違うものである可能性もあるので、この際自分の知識をアップデートするためにもそれらを調べてみることにしました。

そこで、それらについて何かネット上に良い資料がないかと調べていたところ、たまたま自分が受講したセミナーのスライドが流れているのを発見しました。

宇都宮大学農学部生物資源科学科 夏秋知英

その時にこの演目で聞いた話を「植物が自分のRNAを分解して再利用する機能を活用して、ウイルスのRNAを分解してウイルス病から防御するが、一度感染したウイルスに対しては効率よく分解できるようになるため、感染しにくくなる」と理解していたわけです。
で、このスライドを読み返してみて、自分の理解が間違っていないかどうかを確認してみると、「最初から最後まで間違っているわけではないが、説明全体としては正しいとは言えない」という感じでした(苦笑)

さて、そのあたりの防御機構を簡単に解説できればと思っていましたが、冒頭でも言った通り分子生物学は苦手分野で、主要な用語がなかなか理解できません。余裕があればそのうち適切な教科書を入手して勉強したいと思いますが、とりあえず今回の記事ではインターネットの力を借りようかと思います。

ということで、植物ウイルスワクチンに重要な役割を果たすサイレンシングの補足説明については以下のサイトを参考にしました。

東京大学 大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 植物病理学研究室
さて、それでは先ほどの夏秋先生のスライドの内容を中心に解説を試みたいと思います。まず、植物ウイルスワクチンの効果というのは、はっきりわかっているものは大きく分ければ2通りあるようです。

まず一つはウイルスには外被タンパク質というものがあり、そこからの脱外被を阻害して遺伝子の翻訳に進めなくするというものがあります。病原性の弱い弱毒ウイルスを接種することでこれを起こりやすくしておき、問題になる強毒のウイルスに感染した時にその増殖を抑制するというものです。これは自分には比較的理解しやすいものでしたし、早くから仮説として唱えられてきたようですが、外被が欠損したウイルスやそもそも外被を持たないウイロイドでもそれらの弱毒株などとの緩衝効果が見られることから、それだけでは説明がつきません。

というわけで、上記以外のもう一つは(といっても細かく分けると一つとは言えないかもですが) RNA介在性干渉効果というもので、ウイルスが主に遺伝子としているRNAの遺伝子型の発現を抑制するというものです。植物がもともと持っていて、遺伝子型の発現などにも関わるRNAサイレンシングという機構を利用しています。真核生物には広く細胞内に保存されているsmallRNAを使って、相同する配列を持つmRNAに結合させて、タンパク質合成を阻害したりすることで病害性ウイルスの遺伝子発現を抑制します。弱毒ウイルスの接種によってウイルスの遺伝子型を認識し、このsmallRNAが多数生み出されて同様の遺伝子型を持つ強毒ウイルスが感染したとしても、その増殖を抑制するわけです。

ここのところ、スライドには書いていない部分で中途半端に話を聞いていて、私は間違った理解をしていたわけですね…。

さて、では弱毒ウイルスは強毒ウイルスと同様に植物に感染して増殖しますが、なぜ病原性がないか、低いのでしょうか。実用化されている植物ウイルスワクチンのうち、CMV(キュウリモザイクウイルス)については2つのタイプがあります。

強毒ウイルスは、先ほど解説したサイレンシングに対抗するためそれを抑制するサプレッサーというタンパク質を持っています。ただ、このサプレッサーのサイレンシング抑制の作用機構はウイルスごとに異なっているらしく、詳細なメカニズムが解明されているものは少ないようです。CMVの植物ウイルスワクチンのうち一つは、強毒ウイルスが持っているこのサプレッサーが壊れているものと考えられています。このため、サイレンシングが有効に働き、ワクチン接種済の植物については後から来た強毒ウイルスに対してもサイレンシングの効果が発揮できるのでしょう。

もう一つはCMVに寄生するサテライトRNA(ウイルスに寄生するRNAがあるなんてビックリですね)によって病徴が抑制されているウイルスを利用したものです。これによって病徴を出さずにサイレンシングを誘導し、その後に強毒ウイルスが感染しても増殖しづらいとなるようです。

と、このように遺伝子発現の抑制をなぜかRNAの分解、と理解して覚えていたようです。資料にない部分を耳から聞いただけで覚えていたのでは危ういもんですね。反省して、もっと精進したいと思います…。

それから、きちんと調べたつもりですが、このエントリー中身に全く自信がありません。ほんまもんの専門家からどういうツッコミがくるか、ビクビクしています。

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Twitterで話題になった農薬を洗い落とせる水について

以前、Twitterで問題になっていたベジシャワーという商品について、いろいろ思うことがあったのでTwitterで連続tweetしました。で、埋もれてしまうのもアレなのでまとめてエントリーを起こしたのです。


さて、きっかけになったtweetは次のものです。
https://twitter.com/y_psychologist/status/1057801124151869440


問題点は以前に解説しているこの記事が参考になると思うのでご紹介。

以前から繰り返し言っていますが、この商品がどういう性質のものであれ、これほど目に見える形で農薬が残留しているということは考えられません。農薬と一口に言ってもさまざまな種類があり、たった一種類の薬品?で抽出可能なわけはないのです。



自分自身は残留分析の担当をしたことはありませんが、肥料の化学分析は専門でやっていたことがあるので、成分ごとに分析できる形(多くは液体)にするための抽出や分解などの前処理については、その大変さはよく理解できているつもりです。



先ほど紹介したブログ記事にもあったように、トマトをアルカリなどで洗えば、リコピンかカロチンが溶け出してくると思われるので、おそらくその色ですよね。そうでないというなら、慣行栽培のトマトと無農薬で栽培したトマトの両方を洗ってその色を比べてみる必要があると思います。



また、トマト類は汁液が付き易い植物で、茎や葉などを触ったあと石鹸で手を洗うと黄色っぽい緑色の泡が立ちます。トマト果実の表面にはこの汁液がたくさん付着しており、水などで洗うことで、この汁液の色が目立っている可能性も十分考えられます。



なので、トマトの表面に問題があるほど農薬が残留し、あの商品によって農薬が除去できていると主張するなら、洗浄した液体を農薬分析にかけて、そのデータを公開するべきです。もちろん、一般に流通しているものをランダムに抽出してサンプルとしなければなりません。



このようなことから、あの商品説明は不誠実であると言わざるを得ないと思います。



さて、ミニトマトの農薬散布回数について、49回という数値に妥当性は本当にないのでしょうか。結論から言うと、あの言い方はかなりの誤解を誘導するものであり、わざと慣行栽培のトマトを貶める意図があると思われても仕方がないものだと言えますが、数値そのものは全く根拠がない、とまでは言えないと思います。



あの書き方だと、説明不足にもほどがあります。収穫されたミニトマト自体が結実から収穫までに49回も農薬が掛かっているかのようです。通常、開花から結実までは季節によって違うものの、最も長い時期でも45日くらいですから、それだと毎日、たまには日に二回農薬を散布しなければなりません。



元tweetを引用した方は5月植で7~9月に収穫するとおっしゃっています。それは全く正しいのですが、ミニトマトにはいろいろな作型があり、それだけではありません。Tweet主のおっしゃっているのはおそらく雨よけ夏秋栽培という作型かと思われます。



一般に流通しているミニトマトは、少なくとも西日本で多い作型は促成長期栽培と言って、8月中下旬に定植して10月ごろから収穫が始まり、6月くらいまで獲り続けるというものです。その作型になると、病害虫の発生が多い年の場合、農薬の散布回数はかなり多くなると言えます。



ここで、先に農薬の散布回数について、49回という数値の根拠について定義を考えてみます。日本には減農薬・減化学肥料栽培という用語の濫用を防ぐため、「特別栽培農産物の表示に係るガイドライン」というものがあります。



詳細な説明はここでは省きますが、農薬の使用回数を半分かどうか判断するために、それをカウントする際、実際に農薬を散布した作業回数ではなく、農薬の成分の数でカウントするというややこしいことをしています。



例えば、農薬散布の作業回数を減らすために、農家さんは殺虫剤と殺菌剤を混用するということをよくやります。この場合、殺虫剤が1、殺菌剤が1で合計2回農薬を使用したとカウントされます。



なので、先ほどのミニトマト促成長期栽培の場合、9~6月の10か月という長期間にわたる栽培になるので、月に2回農薬を散布したとして実際の作業回数は2×10で20回ということになります。



そこに、それぞれ殺虫剤と殺菌剤を混用して農薬を散布した場合、特別栽培ガイドラインの定義では20×2で40回もの農薬使用回数ということになります。そこへ、種子消毒や苗育成中の農薬を加えると49回というのはあり得ない数字ではないということになります。



特別栽培などについては、各都道府県が地域慣行栽培の農薬使用回数というのを公表している場合があります。これは、地域によって病害虫の発生状況が違うため、農薬の使用回数も違いがあり、全国で統一すると減農薬のやりやすさに地域格差ができるため、そのように設定しているものです。



そこで、先ほどの定義に戻って各都道府県が公表している農薬の使用回数を調べれば、ミニトマトの促成長期栽培の慣行において、49回としているところが出てくる可能性は十分にあるわけです。この数字はもし根拠があるとすればそこを参照した可能性が高いのではないかと思っています。
※注
とあるフォロワーさんが教えてくださいましたが、どうやら群馬県の特別栽培認証基準で、ミニトマトの慣行栽培において農薬の使用回数が49回となっているようです。
http://www.pref.gunma.jp/06/f0910002.html


とはいえ、先ほども述べたようにトマトの果実だけに絞って考えれば開花から収穫までの農薬散布回数は2~4回程度、成分の数を考慮してもその2倍程度までと言えるでしょう。しかも、ふつうは同じ農薬を続けて使うことはありません。使用回数の制限や抵抗性の回避を考慮するからです。



また、農薬の使用に関しては、人間の健康に影響がないよう、個別にその濃度や使用回数に関して厳しく制限されています。どの農薬も、普通に使われている限り収穫時に基準値を超えるような残留は起こりません。



これらのことから、かりに49回使用されていようとよほどのことがなければ、普通に流通しているミニトマトで水で洗ったくらいで目に見えるほどの農薬が抽出されるなどありえないのです。その数字のインパクトだけを強調して、農薬のものかどうかわからない「色」で脅すのはやり方が間違ってます。

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厄介な植物のウイルス病 ~アザミウマが媒介するトスポウイルスとは~

植物病害のうち、糸状菌や細菌の場合、胞子の飛散や土壌、水媒伝染などにより病気が拡散しますが、ウイルスは基本的には生体内でしか増殖、生存できませんのでそういった伝染形式はほとんどありません。直接の接触や剪定鋏での作業などによる汁液感染、害虫のアブラムシやアザミウマ、コナジラミなどを通じた虫媒伝染、挿木や接ぎ木、花粉や種子などの生体内に残存しての世代間伝染などになります。

そこで、対策ですが同じほ場内部での汁液感染については、作業する上において発病株の早期発見と剪定用の鋏などを随時消毒や交換しながら使うなどの工夫をすることがポイントになります。世代間伝染ではいわゆるウイルスフリー株を使う、またはそれらを使って生産された無病の挿し穂や苗を使うことが対策となるでしょう。

厄介なのが虫媒伝染です。最近メロンやキュウリで猛威を振るっているメロン黄化えそウイルス(MYSV)はミナミキイロアザミウマが、トマトに甚大な被害をもたらすトマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)はタバココナジラミ(シルバーリーフコナジラミ含む)が媒介します。

TYLCVについては、最近になって耐病性品種が多数開発され、比較的容易に、また品質も従来品種と変わらず生産できるようになってきています。もちろん耐病性品種といっても、まったく発病しないわけではないので、従来通りの防除は必要です。

露地栽培では侵入防止対策が極めて難しく、施設栽培でもネットの展張などの侵入防止対策をしても、100%の侵入防止はほぼ不可能であると言えます。アザミウマなどの微小害虫が通過不可能なネットだと換気効率が極端に落ちるため現実的ではありませんし、たとえそういうネットなどを使用したとしても作業者の出入りなどの際に侵入があったり、気を付けているつもりでもビニールハウスなどではどこかに隙間はできるものです。

ですが、完ぺきではなくても例えば0.6mm目合いのネットではアザミウマなら侵入率を30%程度までには下げられますし、光線を拡散する資材(白いタイベックシートなど)をほ場周辺に使うことでアザミウマやアブラムシなどの視覚をかく乱して飛翔を妨害し、侵入しにくくすることはできます。

また、それでも不幸にして黄化えそ病などの致命的なウイルス病が発生してしまった場合、発病株の抜き取りと適切な処分(ビニール袋に入れて廃棄、土中への埋設、焼却など)を行い、同時に保毒虫の撲滅を目的とした薬剤による防除が必要になります。

さて、虫媒(主にアザミウマ)伝染によるウイルス病の防除対策についてお話しして来ましたが、メロン黄化えそウイルスなどトスポウイルスの場合、アザミウマが一度ウイルスを含む汁液を吸っただけで生涯にわたって感染能力を持ち続けるのですが、それはなぜでしょうか?

実は、トスポウイルスは、種としては動物ウイルスBunyaviridac科の仲間に含まれ、その中でもMYSVなどはアザミウマの体内で増殖が可能なのです。主に1例幼虫の時に保毒植物から吸汁してウイルスを獲得し、その後アザミウマの体内を移動し、唾液腺に到達してそこで増殖しながら植物への感染機会を待つ、という戦略をとるわけです。また、それらのウイルスはアザミウマの行動も制御し、感染植物には雌成虫が集まりやすく、強い産卵選好性もあるという報告もあります。元になる文献が確認できていませんが、トスポウイルスは元々アザミウマなどに感染するウイルスが変異したものではないかという説もあるようです。

それにしても、元々アザミウマのウイルスだったのならアザミウマとの共同で植物を冒すのではなく、アザミウマの方を脅かしてほしいものですね。

参考サイト:
『むしコラ』 虫媒性ウイルスの巧妙な手口

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ニンニク(暖地系)分球の条件とは ~スポンジ球って何だ~

ずいぶん久しぶりになってしまいましたが、これからまたちょくちょく書いていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。今回から、ちょっと文体を変えていきたいと思います。

関係ないですが、某コーヒー本の書評を書きたいとずっと思っていますが、なんせ世界の地理や歴史に対する知識があまりに浅く、理解が深められないのでまともな書評が書けていません…自分の教養の浅さにうんざりするこの頃です。

私が暮らしている地域は西日本ではニンニク栽培が盛んな地域で、日本一のニンニク産地、青森県の出荷が少なくなってくる春先に早出しをする栽培体系で、収益をあげています。ニンニクを収益の柱としている生産者も多く、ニンニクの品質、収量や単価によって生活が大きく影響を受ける人も少なくありません。

さて、昨年産(植え付けは一昨年)のニンニク栽培ですが、(ここのところ毎年のように)台風などの影響もあってほ場準備が遅れました。その後は暖冬の影響もあって生育自体は順調だったのですが、こちらではスポンジ球と呼んでいる分球しない株が大量に発生し、生産者の収量・収益が大幅に圧縮されてしまいました。

ニンニクは、中心にある生長点が花芽となることで、側球と呼ばれる新しい鱗片が形成され、そこが肥大して店舗で販売されているようなニンニクになります。タマネギと違って、小さい鱗片が寒冷地系品種(ホワイト6片など)ではおよそ6片、暖地系品種(上海早生など)では7~8片が中心の軸(花茎)を取り囲むようについています。この、側球が形成されず、タマネギのように一つの球となり、肥大も悪いものをスポンジ球と言います。

ニンニクが分球する条件は、低温、長日と言われています。日本では、季節的に低温であれば短日になるのが必須ですし、分球の長日条件は20時間と言われていますので、日本にはそこまでの長日になる地域は存在しませんから、必然的に低温が必須となります。

つまり、昨年産のニンニクでスポンジ球が大量発生したのは低温に遭遇する期間が不足していた、というのが最大の原因であろうかと思われます。施肥とか植え付けとかが大きく影響しているならほ場や生産者によってもっと差がついてもいいと思われますが、栽培条件とスポンジ球発生率の調査状況を見てみてもはっきりした相関は見られませんでした。

もう一つ自分が原因として疑っているのは、分球し始めるのは1月くらいかと思いますが、昨年は植え付け時期や気候などから花芽分化が遅れ、花芽分化が始まるのと夜温が上がり、雨が多くる時期が被ったのではないか。そのせいで花芽分化時期に残留していた肥料が効き始め、花芽分化が抑制されたのではないかということです。一般的に花芽分化は窒素の肥効と負の相関があるためです。乱暴に言うと、窒素がよく効いていると花芽はできにくくなるということです。

さて、それらを踏まえて今年あるいはそれ以降はどうしたらいいのでしょうか。

まず、その年の気候がどうなるかは長期予報などである程度予想できるとはいえ、正確には読めませんのでとりあえず作業時期は植え付けから土寄せ、マルチ掛けも例年通りの適期に行うこと。早すぎる作業はスポンジ球のリスクを高めるのではないかと思います。また、施肥量、追肥の時期も適切に。先ほど述べたような理由から、多すぎる施肥は花芽分化を抑制する可能性が高いからです。また、多肥栽培は病気のリスクも増加させます。種球の大きさも大きすぎないように。大きい種球は大玉を収穫しやすくはなりますが、これもスポンジ球のリスクにつながります。種球を割った後、大きい種球は日当たりが悪いなど条件の良くないところに植えるなど工夫しましょう。

ただ、今年の状況からすれば1~2月の寒さが異常なくらい厳しかったため、スポンジ球の発生率は低いものと思われます。一点だけ心配があるとすれば、昨年秋も台風など非常に雨が多く、ほ場準備の遅れから植え付けも遅れに遅れ、生育が良くない状態で厳寒期に突入してしまったことです。それが低温感受性にどのように影響してくるかもう一つ読めないと思っています。

それから、3月に入ってからは急激に気温が上昇し、そこからの地上部の生育が順調すぎるところも気になります。残留していた肥料の効き具合もはっきりしませんし、これだけ生育が急だと病気の発生は多くなりますし、2次生長(分球した新しい鱗片から発芽が起きてしまい、品質が低下すること)も心配です。

さて、ここから先、今年の雨や気温はどうなるんでしょうか。すべてのニンニク生産者の方が良品を収穫し、気候だけでなく懐も温かくなってくれることを祈りるばかりです。

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窒素固定菌(根粒菌)とはなにか

さて、先日Twitterで根粒菌の話題が出ていたので、それに絡めて植物栄養で窒素の話、特に根粒菌というか窒素固定菌について取り上げてみよう。
窒素関連の話題については「有機物施用とアミノ酸吸収について」や「有機栽培と大規模農業経営は対立する概念? ~有機栽培での窒素供給について~」、「化学肥料、何が問題なのか」などで取り上げてきた。植物栄養の窒素としては十分に取り上げてきたと思うので、ご参照いただきたい。
窒素は地球上に豊富に存在し、大気のおよそ80%を占めている。しかし、それはN2という窒素分子の状態であり、非常に安定している。このため、生物の必須元素でありながらほとんどの動植物は大気中の窒素を直接利用できない。自力では有機物として循環している窒素しか利用できないのである。そこで、大気中の窒素を固定し、主に植物が利用できる形態にできる微生物がおり、それと共生するなどして取り込んでいる。それらの菌を総称して窒素固定菌という。それでは、菌の種類(大きなくくりです)ごとに解説してみよう。

1 根粒菌
グラム陰性の桿菌で、主にマメ科植物の根に寄生して空気中の窒素を還元してアンモニア態窒素に変え、宿主に供給する。鞭毛をもち運動性を有するが、宿主に寄生するとこん棒状などのバクテロイドとなり、宿主から光合成産物を受け取って、これを利用してアンモニア態窒素を供給するという共生関係にある。宿主の植物種に対する特異性から8種類に分類されている。窒素固定菌の中では最も効率がよく、9kg/10a以上の生産能力がある。
このようなことから、マメ科植物は窒素肥料を施用しなくても育つ。営利栽培の大豆などでも他の野菜類に比べると窒素施用量は少ない。また、このような性質を利用してマメ科植物を緑肥作物とすることも多い。秋~春にかけてレンゲソウ(紫雲英・ゲンゲ)を水稲の裏作に作付し、春先にすき込むことで空気中の窒素を取り込み、基肥の代替とすることも行われている。

2 フランキア
アクチノリザル植物(ブナ科やバラ科、ウリ科などの一部)という植物群と共生する窒素固定菌であり、真正細菌の一属で放線菌。放線菌は細菌でありながら多細胞で、菌糸や胞子を形成し、見た目は糸状菌(カビ)のようである。ベクシルという細胞を形成し、そこで窒素固定を行う。

3 アゾトバクター
非共生的に窒素固定を行う細菌。好気的環境において単独で窒素固定を行い、酸素がないと生存できない。窒素固定だけでなく植物ホルモンの産生も行い、土壌に接種することでムギなどの増収効果があることが知られている。作物根圏に定着させる条件は明らかになっていない。

4 ラン藻類
藻類の一種ではなく、細菌と考えられ、近年は藍色細菌と呼ばれている。ラン藻類には窒素固定能を持つものも多く、アカウキクサなどと共生している種類もある。

5 その他
嫌気性菌のクロストロリジウム、光合成細菌の一部、メタン菌の一部、硫酸還元菌の一部などが窒素固定を行う。

6 番外
窒素固定ではないが、植物の根と共生する菌根菌というものもある。様々な高等植物の根と共生し、難溶性のリン酸を可溶化することで植物に供給する。糸状菌で、内部に着生するものと外部に着生するものがある。

以上、窒素固定菌について解説してきたが、菌の種名、分類についてはよくわかっていないので、そのあたりのツッコミはご遠慮願います(苦笑)

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IPM(総合的病害虫管理)ってなんだろう

農業生産の現場にいると、IPMという言葉を最近よく目にするようになった。これはIntegrated Pest Managementの略で、日本語では総合的病害虫管理と訳されることが多い。これは農薬だけに頼らず、利用可能なすべての防除技術をそれぞれ矛盾することなく組み合わせて実用上収益に問題ないレベルまで病害虫を抑制しようというものである、と私は理解している。念のため、FAO(国連食糧農業機関)による定義を引用しておこう。

『Integrated Pest Management (IPM)とは、農作物に対する有害生物制御に応用可能な全ての技術を精緻に考慮し、それらの発生増加を抑制する適切な方法を総合的に組み合わせ、農薬やその他の防除対策の実施は経済的に正当なレベルに保ちつつ、人や環境へのリスクを軽減または最小限に抑えることを意味する。IPMでは、農業生態系撹乱の可能性をより少なくし、有害生物の発生を抑える自然界の仕組みをうまく活かすことにより健全な農作物を育てることが重要視されている。』

ここでは人や環境へのリスクも軽減することが謳われている。ここでお気づきの方も多いと思うが、ことさら農薬の低減を強調したり、食の安全安心の向上に触れたりしていない。もちろん、「人へのリスク軽減」という部分からそう読み取れないこともないが、それらを含んでいるとはしてもそれが目的の主体でないことは明らかだ。
というのも、「食の安全」という意味において、農薬の低減や不使用はあまり意味のあることではない。農薬の使用基準については品目ごとに厳密に残留基準値を超過しないように設定されており、残留基準値自体も健康影響が起こらないように設定されていることは以前から述べている通りである。

ではなぜ、こういう概念が生まれ、普及してきたのだろうか。その歴史については農薬工業会のサイトが詳細に解説している。そちらはそちらでお読みいただくとして、以下で私の個人的見解を述べてみたい。

農薬工業会のサイトで解説されているように、IPMの元となる考え方は化学農薬に頼りすぎた防除体系に対する反省から1960年代から提唱され始めたようだ。ただ、私の印象では少なくとも日本では2000年代に入るまであまり浸透していなかったのではないかと思われる。というのも、農薬の使用基準に対する使用者の違反は平成15年に農薬取締法が改正されるまで罰則はなく、濃度や使用後日数が守られていない事例もあったのではないだろうか。それでも残留基準自体がかなり安全側に振った設定になっているうえ、使用基準も残留基準を超えないように余裕を見て設定されていたため、食品として流通している農作物で直接の健康被害はまずなかったはずである。
それでも平成15年の農薬取締法改正以後、というより平成14年の無登録農薬事件以降、世間(というより流通業者)の目が非常に厳しくなり、農薬使用基準の遵守や化学農薬の使用低減への意識は急激に高まってきたと思う。

  また、その事件等とは関係なく、農薬の安全性向上は農薬メーカーでも取り組まれ、様々な病害虫に対し、より特異性が高く人畜への毒性が低い農薬が開発されており、そういった農薬への移行が進んでいる。また、農薬工業会のサイトにも書いてあったように昔の農薬のように強力で一網打尽できるような殺虫剤は害虫の天敵も撲滅してしまい、かえって害虫を増やすというような現象(リサージェンス)を引き起こすこともあり、また強力であるがゆえに同じ農薬を繰り返し使い、抵抗性も発達させ、効果も現れにくくなってきた。そのような面からもIPMには意義がある。

さて、それでは生産の現場ではどのような技術が用いられているのだろうか。

1 耕種的防除
栽培上の工夫で病害虫を減らす防除技術。土壌改良や耕起などによる土壌の膨軟化や水はけの改善によって植物を健全にするとともに土壌伝染性の病害を減らす、残渣の圃場外への搬出により病原菌などの増殖の防止、輪作によって特定の病害虫の増加を防ぐ、台木や抵抗性品種の使用、それらを総合して栽培環境を適正化することによって防除を行う。

2 物理的防除
物理的障壁を作ったりすることで病害虫の侵入を防ぐ技術。防虫ネットにより害虫の侵入を防ぐ、粘着トラップなどで害虫を捕獲する(これは個体数の低減よりも発生のモニター目的のことが多い)、光が散乱する資材で害虫の飛来を阻害する(UVカットフィルムも含む)、紫外線や緑色光で抵抗性を誘導する、黄色蛍光灯で夜蛾類の飛来を防止する、などである。

3 生物的防除
生物を用いて病害虫の活動を抑制する技術。天敵による捕食で害虫の密度を下げる、拮抗する微生物により病原菌の増殖を抑制する、害虫に対する毒素を持つ微生物資材(菌そのものの場合と抽出毒素の場合がある)により防除する、など。

4 化学的防除
いわゆる化学農薬を使用した防除。殺虫、殺菌のほか誘因や忌避剤も含む。

これらを相互に矛盾しないように使用する、と先ほど述べたが、このあたりのマネジメントが難しいのである。例えば天敵を使用する場合、特にハダニ類の場合は同じダニ類の天敵であるカブリダニを使うことが多いが、当然ながら殺ダニ剤は天敵のカブリダニも殺してしまう場合がある。天敵のカブリダニには効果が少なく、ハダニには十分な効果のある薬剤もあるが、そうすると使える薬剤が限られ、慎重に防除のタイミングを図る必要がある。また、天敵が活動しやすい環境を作る必要もあり、そのためには餌になる害虫もある程度の発生は許容する必要があり、化学的防除への切り替えのタイミングを見誤ると被害が増大することもある。このため、IPMをうまく運用するためには発生密度やその他環境のモニターが欠かせないのである。

今回、IPMの意義や技術内容を紹介しようとして、すごくまとまりのない文章になってしまった。しかし、言いたいことはあらかた吐き出せたと思うので、疑問点や誤りなどご指摘していただき、より理解が深められれば、と思っている。

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「醤油本」

というタイトルのムックが発売されているということをTwitterで相互フォローの方から教えていただいた。それに、直接の知り合いではないが結構身近な人が著者に名を連ねているということもあり、仕事にも関わることなので購入してみることにした。

まずは醤油の歴史や地域性について解説がなされており、一般的に知られている淡口、濃口醤油の違いについて、製法から解説してある。一般に関西では淡口、関東では濃口が主流と簡単に思われいている、というか自分はそんな程度の認識だったが、関西でも多いのは濃口で、淡口の比率が関東よりかなり高いというだけだったのは意外だった。

そのほかにも九州で主流の甘口醤油は香川でも結構流通しているらしく、我が家では甘口醤油はあまり使うことがないのでそういうことも知らなかった。

刺身には刺身用の醤油を使っているが、単純に「溜」を使っているものと思っていたし、溜というものは単に濃口をさらに濃くしたものかと思っていたが、それも違った。製法だけでなく、原材料にもいろいろあり、それらがあの豊かな風味の違いを生み出していたというのは非常に興味深いものであった。というか、自分の無知が恥ずかしくなる思いだった。刺身醤油も単に溜醤油というわけでなく、食材によってはその他の醤油が合う場合も多いようだ。

アミノ酸を添加する混合醸造やその他の添加物についても丁寧に科学的に解説してあり、必ずしも本醸造や昔ながらの長期間の熟成が良いばかりではないときちんと述べている点にも好感が持てた。この辺は100巻以上続いている某グルメ漫画とは違うところだ。

それから、醸造用の木桶復活にも触れられているが、これがまた結構身近で行われていることに驚いた。小豆島のヤマロク醤油というところの社長が取り組んでいるようだが、これはもしかして前回の瀬戸内国際芸術祭の折に小豆島の醤の里で見たものがそうだろうか。また、醤の里に行く機会があったらぜひ訪れてみたいものだ。そのときはツーリングもかねて、私がもう一つ運営しているバイクブログの方で紹介できればと思っている。

蔵元紹介のページでは各地の味わい深い蔵元が紹介されていた。それによると、自宅から結構近いところにおもしろそうな蔵元があるようだ。また是非立ち寄ってみよう。そのほかにもこの本には紹介されていない蔵元が近くにあるはずなので、そこも覗いてみよう。スーパーなどで売っているのを見かけたことはないので、直売してもらえるのなら買ってみたいところだが。

ただ一点だけ気になったのは、遺伝子組み換え大豆に関する記述で、決して否定的に書いているわけではないが、気になる人向けに表示で見分けるための知識が紹介されており、少々もやもやする気分にされてしまった。ほんのわずかではあるが、マイナスイメージにつながりそうな書き方をされていたからである。

ともあれ、全体としては非常に読みやすく、内容も好感の持てるものだった。こうした調味料に興味のある方、大メーカーの大量生産品や添加物が気になる方、地域ごとの、地元の醤油事情が知りたい方は是非手にとって読んでみることをおすすめしたい。
ソースでもこういう本が出ることを期待している(某氏に向けて)。

本の出版情報を記載していなかったので、追記しておきます。

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齋藤訓之著「有機野菜はウソをつく」について

Food Watch Japanを運営している齋藤訓之さんが「有機野菜はウソをつく」という非常に刺激的な表題の著書を出された。この表題から想像される内容を自分なりに予想しながら読み進めたが、中身は表題ほど攻撃的ではなく、極めて常識的である。それでも、この内容を書籍という形で世に出すのは、たとえば自分が著者であったらできるかというとかなり勇気がいる(シャレではありません)。そういった点で齋藤さんのその意気には敬意を表したい。

第1章は有機農業の定義から、その存在の意義、中身について語られている。その内容は我々農業の技術者、中でも土壌肥料や病害虫関係の技術者にとっては常識ともいえる内容であった。ただ、環境保全型農業の推進を掲げている行政の中で、そこに関わっている立場からすると思ってはいてもなかなか口には出せない。それは以前のエントリーでも述べたとおりだ。なので、齋藤さんのこの本が世に出たことは非常にありがたいのである。

ともかく、自分としても以前から「自然だから美味しいって本当だろうか」や「化学肥料、何が問題なのか」などで述べてきたように農業はけっして自然ではないし、自然だからおいしく、安全安心なのだという考え方には異議を唱えてきた。
その点において、第1章は論点をきちんと網羅してコンパクトに述べており、理解しやすいと思う。ただ、この「理解しやすい」は自分のような農業の技術者でない場合にもあてはまるかどうかは自信がないので、様々な意見が出てくる可能性はあると思う。

第2章は慣行農法の元肥偏重主義への疑問の提示からその性質をよく知らないまま堆肥を使用することなどについての問題点の指摘などが主体になっており、それに対比する形でブドウなどで取り入れられている栄養周期理論が取り上げられている。

元肥に極端に偏った慣行農法の、特に野菜の施肥体系については問題点の指摘については全くその通りだが、現在の日本の農業の現状(狭い農地面積で人手で集約的に行うなど)からすれば労力と収量・品質などのバランスを考えた効率からすると元肥主体が今のところベターなのである。もちろん本書ではそいういった点にも理解を示してはいる。とにかく、技術的な問題点を示しながら、どのように進むべきなのかが直接書いてあるわけではないが、どのように考えていくべきなのかのヒントがそこにあるのではないだろうか。

第3章は有機農業がどのように定着してきたかをメインに、近代農業の歴史みたいな話だった。有機農業に対する認識はほぼ現場の実感に近いと思う。特にコーデックスや有機JAS成立以前は生産者も、流通業者も「有機農産物」に対する認識が甘く、何が有機農産物なのかはっきりしない中でなんとなく良いイメージで世の中に浸透していたのではないだろうか。一般の人はほとんどの場合有機JAS法などはその中身を知らないためにそういう変化を知らないままのように思えるが・・・。

第4章では安全安心は有機であるかどうかではなく、どのような管理体系を組むのか、どういうところに注意すべきなのか重要なのだと述べている。頻繁に自分の畑をみて、植物の状態を細かく把握し、変化を見逃すことなく対応できる人が収量も品質も確保できるのだ。

私も以前から主張しているように、技術のある生産者の農作物は有機であろうとそうでなかろうと美味いものは美味いし、技術のない人のものはたいがいまずいのである。ただ、ややこしいのはこの「技術」にはセンスも含まれるというのが私個人の感想である。鍛えて伸びる部分ももちろんあるが、センスのある人とない人(考え方を整理できるかできないかも含めて)の間には越えられない壁はあると思う。

第5章では、消費者としてどのようなことに気を付けて農作物を選ぶべきかということについて述べられている。調和がとれているものは見た目にも調和がとれている、という視点はなかなか面白い。言われてみればその通りなのだが、説明の仕方についてはこういうやり方もあるのかと感心した。

一点気になったのはチップバーンをカリウムの欠乏としているところである。もちろん欠乏症状として下位葉から出始め、縁が枯れるようになってくるというのも間違いではないが、自分の認識としてチップバーンと言えばカルシウムの欠乏症で新葉から出てくることが多く、葉の先端が枯れこんでひきつれたようになる、というものである。手元にある資料を調べてみたが、チップバーンはほぼカルシウム欠乏が原因と書いてあるが…カリウム欠乏による下位葉の枯れこみもチップバーンと呼ぶ場合もあるかもしれないので、ここはちょっと保留である。

ともあれ、全体としてはおおむね同意できるところが多く、この内容を世に問うてくれたところは大いに評価したい。これだけで流れが変わるとは思えないが、きっかけの一つになってもらえるよう、私も自分の立場から働きかけてみたいと思う。

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有機栽培と大規模農業経営は対立する概念? ~有機栽培での窒素供給について~

さて、こないだ某所で有機栽培における窒素供給の観点から、有機栽培は大規模経営には向かないのか、といった話が持ち上がっていたので、そのあたりどういう風にまとまるかは自分でも読めないが、取り上げてみたい。なお、有機栽培の定義からすると農薬の使用についても関わってくるが、今回は肥料成分、中でも窒素成分についての話に絞って論じてみたい。

とりあえず、関連する過去記事を上げておく。

窒素を施用しないで炭素のみ循環させて行う農法がある。その中で、炭素を循環させることの意味についてお話しています。

初期のエントリーで、一文が長く読みにくいですが、とりあえず有機農法の定義について冒頭だけお読みいただければ。

-引用開始-
有機農法と慣行農法の収量の差がこれまで推定されていたより少ないと主張する論文について。内容をよく見ると有機農法だけローテーションしていたりと比較のしかたがおかしいところが多い。窒素必要量の多い作物での有機農法の不利は圧倒的な事実である。収量を環境とは関係がないと主張しているが、それこそが持続可能な農業にとっては重要な問題である。さらに有機農業と大規模工業的農業は対立概念ではない。大規模有機農業も小規模環境農家もいる。そもそも圧倒的に慣行栽培が多く米国では有機栽培は作物で0.8%畜産で0.5%のみ。しかも有機のうち大規模(500エーカー(2 km²)以上)のほうが多い(60/40)。
(ちなみに日本の農家の平均耕作面積が2ヘクタールで500エーカーの100分の1)
-引用終了-

有機農法の定義から言えば、十分な窒素施用量を確保することは実はそれほど難しいことではない。有機質資材由来であれば窒素成分をいくら施用しようともそれは有機農法の範疇になるからである。鶏糞や菜種油粕、米ぬかなど比較的窒素成分量の多い有機質資材はいくらでも存在する。では、なぜ窒素必要量の多い作物では有機栽培は不利なのか?
小規模であれば、さほど不利ではないと思う。必要十分な肥料さえ確保できていればまず問題はない。作物の生育を丁寧に観察し、施肥量などを適切に調節したりなど手間と費用を考えなければ品質収量を確保することは十分に可能だからである。

それが大規模になれば事情は変わってくる。安定した品質の有機質肥料を大量に確保することは難しいし(規模にもよるが、そもそも有機質肥料等の生産や品質が安定しない)、有機質肥料は目的とする作物の窒素量の確保だけでなく、他の養分のバランスも、作ろうとしている品目にとっていいものとは限らないからである。

それでは、よく使われる有機質肥料や堆肥の含有成分はどのくらいだろうか。一覧にしてみよう。一応これらは保証成分として表記されているものをおおよそでまとめてあるので、「なし」となっているものも本当に0%というわけではない。なお、家畜ふん堆肥はおがくずなどの副資材を含まない場合を想定している。

1) 魚かす 窒素5~8%、リン酸5~8%、加里なし
2) 窒素質グアノ 窒素13~15%、リン酸8~9%、加里1~2%
3) リン酸グアノ 窒素1%以下、リン酸27~30%、加里1%未満
4) 菜種油粕 窒素5~6%、リン酸2%、加里1%
5) ダイズ油粕 窒素6~7%、リン酸1~2%、加里1~2%
6) 牛ふん堆肥 窒素2.3%、リン酸4.1%、加里0.4%
7) 豚ふん堆肥 窒素3.8%、リン酸5.4%、加里5%
8) 鶏ふん堆肥 窒素3.1%、リン酸8%、加里4%

(参考:農文協 肥料便覧第5版 伊達昇・塩崎尚郎編著 若干数字は丸めてあります)
これは、含有量での表記なので、植物がすぐに利用できる成分の割合(肥効率という)はこれぞれ違ってくるので注意が必要である。例えば、同じ家畜ふん堆肥でも牛ふん堆肥は炭素率(炭素/窒素の重量比)が高いため、肥効率は低めで窒素で3割程度だが、鶏ふんや豚ふんは7割程度である。

これらを見ていただくと分かるように、肥効率も考慮して有機質肥料でも重量比で化成肥料の1~5割程度窒素成分を含んでいる。鶏糞などであれば10aあたり500~1000㎏施用すればJAなどが発行している栽培のしおりに掲載されている元肥の窒素量は十分カバーできるということになる。ただ、化成肥料だと10aあたり100㎏程度で済むところ、その5倍から10倍の施用量が必要になり、労力がかかること、肥料バランスをとることが難しいこと、住宅に近接した農地では臭いなどに配慮が必要なことなど難しい点も多い。

ただし、ならば化成肥料は(循環ということをとりあえず考慮しないとしても)万能かというとそういうわけではない。詳しくは過去のエントリー「化学肥料、何が問題なのか」をご参照いただきたいが、もともと元肥偏重の施肥設計が多いうえに高濃度であるがゆえに過剰に施用してしまうことも多く、植物の根張りなど初期生育に悪影響が出たり、環境負荷が大きくなることもある。

わが国では、有機農業というと環境意識の高い篤農家が手間暇かけてやるイメージが強いが、先ほど述べたようにすくなくとも肥料に関しては(有機JASの規格を満たしていればよいのであれば)、決して大規模経営が不可能なわけではない。何より、ベクトルが全く逆を向いているというわけではないので、そもそも分けて考えるべきものなのである。

それらのことを総合的に考えると、持続的農業を目指すにせよ、やはり有機質資材(肥料)は資源の有効利用や土づくりを考慮した施用とし、それをベースにして化成肥料でバランスをとるというのが理想的であるといういつもの結論になると思われるがいかがだろうか。

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