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2013年6月

一般的な農家が目指している農作物とは

さて、前回のエントリー「Food Watch Japanでの反収の国際比較について」の続きである。当初はFood Watch Japanの岡本さんの連載第2回目に応じた記事にしようかと思っていたが、そちらの進展が早く、少々様相が変わってきたので、農家が出荷するに当たって目指している作物品質についてざっくりとした話をしたい。

岡本さんは品質とは何か、盛んに問いかけておられる。言いたいことはわかるが、としたくなるところであるが、おそらく連載がもっと進まないと真意は見えないので直接内容に言及するのは現時点では避けておく。

さて、普通に農家が目指しているのはどういう農作物だろうか。それは果たして一般ユーザーの求めるものと大きく乖離しているのか。

誰しも、最終的に求めているのは「出来るだけ楽して儲けたい」だろう。もちろん「消費者に良い物を届けること」が「儲ける」ことよりも優先している人もいるだろう。それらの優先順位も、この人はこっち、あの人はあっちとはっきり分けられるものではなく、人によってその比重は変わり、グラデーションのように徐々に変化していくものだと思う。

では、「儲ける」ということを最優先に考えた場合、そして最も多くの農家がそうであるようにJAや卸売市場にほぼすべての農作物を出荷している場合を野菜を例にとって考えてみよう。

この場合、すべての農作物に「出荷規格」というものがある。例えばアスパラガスでは秀品、優品に分けられる。秀品である条件は曲がりがない、カラーチャート(緑色の濃さを判定する)で春芽なら5段階の3以上の濃さがある、扁平でない、割れていない・・・と細かく決められている。これらに次ぐものが優品で、優品にならないものは出荷できない。その中で太さ(一本当たりの重さ)で階級が分けられ、とある農協の例では50g以上であれば3Lで2本で1束、35~50gで2Lで3本で1束など、秀品で5段階、優品で3段階、計8階級あるのだが、その中で市場(いちば)が秀の2Lは200円、Lは180円などと値段を決めていく。そういった市場出荷の場合あまり味は重要視されない。ほとんどは見た目での秀・優品と太さ(重さ)による規格のみだ。

アスパラガスの場合、規格別の単価はL~2Lが好まれるためか単価が高い場合が多い。つまり、農家としてはとにかくその太さが最も多くなるように、秀品の規格品が増えることを目標に栽培することになる。他の品目もほぼ同様で、秀・優品別に重さごとの規格になるが、その規格の中で最も単価の高い規格になるよう栽培が行われるわけだ。また、アスパラガスについては太いほうが結束作業のときの本数が少なく、切りそろえたりする手間が少なくなるため、そういう意味からも作業時間的に農家が有利になる(労働生産性が高まる)といえる。

この規格別に単価が変わってくる要因は何か。それは市場が売りやすいかどうかである。最近では昔のようなセリがほとんど行なわれていないので、大規模量販店が求めているものにほぼ直結している。これがユーザーの声をどれだけ反映しているかはわからないが、量販店の言い分としては一番価格の高い規格の商品が売りやすく、売れるということである(市場担当者を通した伝聞。筆者の力量不足で申し訳ない)。

以上のようなことから考えると、量販店としては最も売りやすく、儲かる規格から買っていく。そしてそれは市場・JAを通して生産者に示される。つまり農家はJA、市場、量販店というフィルターを通して間接的にユーザーのニーズを見ているわけだ。それがこの規格というやり方で示されている以上、農家としてはそれにしたがって収入を増やせるようにやっていくしかない。前回のまとめ(togetter)で今以上の収量増には消費・流通まで含めた構造的な問題と述べさせてもらったが、それはこういった規格品という「品質」を求めている現状のことを言っているのである。

とはいえ、消費者や量販店の方から変わってくれることだけを期待してただ待っているだけでは日本の農業も変わることはできまい。岡本さんもこのあたりをわかっていて仕掛けてきているのかどうか、今後の展開を見守りたい。

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Food Watch Japanでの反収の国際比較について

Food Watch Japanというサイトで岡本信一さんが連載されている「「よい農作物」とはどんな農作物か?」というコラムがある。岡本さんの考え方は自分に近いところも多く、その主張には首肯できる部分が多い。いったん連載が中断されていたのだが、特に再開後の連載では、岡本さんの持っている危機感を前面に押し出そうとしているように思える。そしてその再開後1回目が「日本の農業技術は国際的に低レベル」、2回目は「日本農業はユーザー無視の歪んだ農業」という非常に刺激的な表題だった。

まず、「日本の農業技術は国際的に低レベル」であるが、表題のイメージにたがわず、内容も刺激的であった。これについてツイッターで少し触れたところ、koume_noukaさんやzevonkeirinさん、doramaoさんからリプライをいただき、それをまとめたのである程度の問題点を抽出できたかとは思う。しかし、自分としてはまだいいたいことがあったので、まずはそこから触れていきたい。

岡本さんの記事を受けて、Food Watch Japanを主宰している齋藤訓之さんが「世界各国と日本の農産物単位面積当たりの収穫量の比較」という記事を書かれている。

-引用開始-
これは国際連合食糧農業機関(FAO)が提供する統計情報FAOSTATから作成したものです。同統計の中から、1961年~2011年の間で10年間ごとに世界各国の作物ごとの単収(Yield)を呼び出し、2011年時点の上位10カ国+日本のデータをグラフ化しました。元のデータはHg/Ha(ヘクタグラム・パー・ヘクタール)ですが、グラフではkg/10aすなわち反収のキログラムに換算しています。
-引用終了-

上位10か国との比較とのことなので、日本にとってはずいぶん厳しいとも思えるが、「優秀である」というのならせめてベスト10に入っていなければ、とも思われるのである。しかし、この比較にはいくつか疑問点がある。まず1つは、国ごとに統計のとり方が違うのではないかということ。日本では、規格に合わない農作物は流通されず、廃棄されることも多い。また、市場流通のものだけを面積で単純に割っただけだと相対取引や産直に出回ったものが計算に入っていない可能性もある(それはもちろん諸外国でも同じことが言えるかもしれないため、より日本が不利になることも考えられる)。

また、togetterでdoramaoさんが指摘されていたように、生食用なのか加工用なのかで品種も管理も変わってくるためにそれがわからなければ比較にならない。

また、仮に統計や使用目的などの条件がまったく公平だとして、栽培適地かどうかということもあるだろう。例えばアスパラガスなどはあまり高温多湿の夏がある日本には向いていない品目だと思う。ハウスものは別にして、露地のアスパラガスでは雨のため病気が多く、梅雨~夏季には株の状態を保つのに非常に神経を使う。このため、新芽の収穫は春採りのみで終わらせ、あとの季節は収穫せずに株養成だけにする場合もある。Food Watch Japanで紹介されている統計では日本のアスパラガスは約500kg/10aとなっているが、これはその春芽だけという作型の収量に近いのではないか。少なくとも西日本のハウス栽培ではこの3~6倍、露地ものでも長期採りなら2~4倍程度の収量はあると思う。アスパラガスの春芽のみの栽培にしたところで、他の品目との組み合わせによって戦略的に行なっていることもあるので、単純に技術不足とはいえまい。

先ほど上げたまとめでも触れているが、アスパラガスに関して言えば南米のペルーでは雨のほとんど降らない気候を利用して、大規模な点滴潅水施設を導入し、一年中株養成と収穫が行える(ここを参照。PDF4枚目(ページ番号は20))。日本のハウス栽培でも点滴潅水を導入して効果を上げているところもあるが、水の便が悪いところも多く、用水やため池の水では水質が悪いため点滴潅水用のチューブはすぐ詰まってしまい使えないことが多い。配管可能なところでは水道水を使っている事例もあるが、10aに満たない規模が多い瀬戸内地方ではコストの面でなかなか採用されないという事情がある。

また、水稲では先ほどのまとめでkoume_noukaさんが指摘しているように地域によっては1年に4期作も行なえるところもあり、また品種も違うためこれも量だけの比較は公平とはいえないと思うし、日本の水稲栽培の技術はもはや収量のほうは向いていないことが多いのである。

つまり地域の事情や戦略もあり、単純に収量が少ないことをもって技術不足と断定するのはいささか行き過ぎに思えるのだがどうだろうか。

とはいえ、日本の農業(特に施設園芸)はおそらく他の先進国農業に比べ集約的であり、人的資産に支えられていることから労働生産性はあまり高くないか可能性が高い。つまり、単位面積あたりの収量については、これらの事情から悪くないといえたとしても、農家の時給に換算すればどうなのかというとあまりよくないイメージではある。ここについては、今のところいいデータが見つかっていないので、また見つかった時点で論じたいと思う(これも単純に額だけで比較するのは難しい。為替レートやそれぞれの国の物価を考慮する必要があるから)。

それでは次に、「日本農業はユーザー無視の歪んだ農業」に移りたいが、長くなったのでいったんここで終わり、次のエントリーで論じたい。

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