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比嘉先生の「発酵と腐敗」

EMの比嘉先生が「EM生活」というEM関連商品の通販ページにある季刊誌「健康生活宣言」 Vol.14(PDF) で発酵と腐敗について述べておられる。これは、自分の以前のエントリー「農業の観点から見たEMぼかしの問題点と活用について」に対する反論になっているようだが、色々と問題のある記述が多いので、その当たりを指摘しておきたい。

※文中、引用部分について特に断りのないものは「健康生活宣言」からの引用です。

まず、比嘉先生は発酵を「微生物が酸素が少ない状態で有機物を分解していく現象の総称」と定義されている。狭義の発酵はそうである。しかし、人間にとって有用な微生物の分解作用もすべて発酵と呼ばれるのが一般的であり、酢酸菌によってアルコールから酢酸を生成する好気発酵もある。発酵と腐敗は人間にとって有用かそうでないかの違いでしかなく、その分別はかなり恣意的なものである。比嘉先生の記述を呼んでいると、微生物の作用にも絶対的な真理としての良いものと悪いものが存在するかのように思える。一般的に簡単に解説したいという意図があると善意に解釈することもできるが、あまりにも稚拙ではないか。

さて、好気的に微生物を作用させて堆肥を作る事について解説しておられるので、その部分を引用してみよう。

-引用開始-
もちろん、酸化分解のときは好気性の微生物が働きます。しかし酸化分解のときは有機物の成分は全部、微生物のエネルギーとして使われてしまい、最後は分解しにくい腐植質やミネラルが残るだけです。要するに有機物のエネルギー的にはカスということになります。
-引用終了-

このエネルギーというのがさっぱりわからない。ここで自分の理解では使うエネルギーとしては好気的分解作用では炭水化物が使われる。しかし、有機物の成分はこれと比嘉先生の仰るミネラルと腐植質だけではない。窒素やリン酸はどこへ行くのだろうか。有機物の分解には一般に炭素率(C・炭素/N・窒素比)が重要で、土壌中ではこの炭素率がおよそ10で安定する。これより炭素が多ければ分解は比較的遅く二酸化炭素の発生が多くなるし、窒素が多ければ分解は速くなりアンモニアや亜硝酸、硝酸となって環境中へ放出される。
消費されるエネルギーが炭水化物だけならまったく問題はないし、環境中へ出て行かなかった窒素やリン酸なら微生物に取り込まれて地力となるだけのことである。それに何の問題があるのか自分には理解できない。

-引用開始-
EMで栽培した農作物は有用な酵素が働いていますから、それが分解するときには自然界にいる有用な微生物が増えやすくなり、結果的にその酵素に関連するEMの仲間がそこに増えます。だから、一見すると腐敗したような状態でも、悪臭が出ない、要は発酵になります。
だから、もし、農作物を放置して、悪臭を発するならそれはEM栽培でないことになります。EM栽培かどうかを調べるには、水を加えて腐らせます。そして嫌な臭いが出なければEMです。嫌な臭いが出たら腐敗分解ですから、EMでないか、EMを十分使っていないかです。
-引用終了-

嫌な臭いとはなんだろうか。嫌でなければEM、嫌ならそうでないなど余りにもいい加減な解釈ではないか。臭いが嫌かどうかはその人の個人的嗜好や体験によるところが大きいだろう。例えば、伊豆方面の特産である「くさや」は強烈な臭気を持つが、これを(特にくさやの汁は)初めて見る人はほぼ腐っていると判断するだろう。このくさやの汁の中で働いている菌は乳酸菌の一種であり、くさや自体は食用として愛好する人もたくさんいることからどう考えても「有用発酵」をしている。であるが、それが食用であると知らない人は腐っていると判断する。臭いで有用かどうかを判断するのは基準としてはかなりあいまいといわざるを得ないだろう。「くさや」のような極端な例を挙げなくとも、「納豆」を知らない外国人に見せたらこれもその臭い、形状から皆腐っていると判断するにちがいない。つまり、EMかどうかの判断は、見る人によって変わる可能性が高いのである。また、「良い臭い」であるからといって有用発酵だと判断するのは余りに危険だろう。ここの部分では直接口に入れるものではないが、有害物が発生していたらどうするのか。それに、他の部分で生ごみにEMを使い続けていれば食用にもなると仰っているが、それでなにか事故でもあったら責任はどう取るおつもりか。いや、それはEMではなかったと仰るのだろうが。

-引用開始-
例えばビタミンCに、抗酸化力があるかないかは還元力で見ます。ビタミンCはすべて抗酸化力があるわけではありません。酸化型のビタミンCは発ガン性を持っていますので、同じビタミンCでも中身がぜんぜん違います。化学肥料で栽培したものは酸化型ビタミンCが増えます。一方EM栽培の農作物のビタミンCは還元型ビタミンCが圧倒的に多いのです。
-引用終了-

私は食品栄養についての知識に乏しいので、酸化型ビタミンCとはなにか食品栄養に詳しい方に尋ねてみたところ、酸化型ビタミンCとはデヒドロアスコルビン酸といい、アスコルビン酸が酸化されたものである。これについて、念のため野菜等健康食生活協議会事務局のサイトからも引用してみよう。

-引用開始-
体内でも還元型ビタミンCはデヒドロアスコルビン酸に酸化されますが、状況に応じて容易に還元型に戻ります。実際、還元型を摂取しても酸化型を摂取しても人体内ではほとんどが還元型として存在することが実験でわかりました。そのため、「還元型ビタミンCと酸化型ビタミンCのビタミンC効力は人体内では同等である」とされ、「四訂食品成分表」からは、還元型と酸化型を合わせた総量(総ビタミンC)をビタミンC量として示しています。
-引用終了-

つまり、還元型(アスコルビン酸)であろうと酸化型(デヒドロアスコルビン酸)であろうと人体への影響は変わらないということである。比嘉先生は「酸化型ビタミンC」に発がん性があるなどという話はどこから仕入れてきたのだろう。きちんと証明されたデータであるなら、根拠を示していただきたい。

それでは、土壌肥料の技術者が普通に理解している嫌気的分解と好気的分解について、農文協「新版 土壌肥料用語辞典」から引用してみよう。

-引用開始-
有機物が微生物の作用を受けて分解される場合、酸素が十分に供給されたときと、そうでないときとでは、作用する微生物の種類及び分解産物が異なる。前者を好気的分解、後者を嫌気的分解という。畑地では主に好気的分解が糸状菌や放線菌などの好気性細菌によって行われ、有機物は最終的には炭酸ガスと水にまで分解される。一方、水田では田面水のため土壌は酸素の少ない嫌気状態となっており、有機物の嫌気的分解が嫌気性細菌によって行なわれ、有機酸、メタンガス及び硫化物(硫化鉄、硫化水素)などが生成する。落水後、水田土壌では好気性菌による分解が始まるが、すでに地温が低く、また通気性がわるいので有機物の分解は十分に進まず、未分解の有機物が集積する。堆肥製造時の有機物の分解は発酵期(高温期、65~80℃)と熟成期(30~40℃)に区分され、嫌気的な発酵期では高温細菌が、一方熟成期では好気性の糸状菌や放線菌がそれぞれ分解に関与する。
-引用終了-

このように、嫌気的環境では植物に有害なものが発生している。EMでは様々な微生物が循環的にうまくお互いの生成物を利用しあって嫌気的環境でも有害物は発生しないと仰っているようだが、それならば出来上がってすぐのEMぼかしでも土壌に施用していいと思うのだが、大概の場合、大気にさらしたり、土壌に施用してしばらく熟成させたりしてから使うようにとされているのはなぜなんでしょうね。

最後に、細菌や糸状菌の専門家がこれを読んでおられたら、是非ここで紹介した健康生活宣言Vol.14をお読みいただいて、分解、発酵の解説についてチェックいただきたい。その部分については私の手に余るところが大きいので、よろしくお願いします。

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