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2012年10月

水田で野菜栽培をすること -輪作はなぜ必要か-

平成24年度の耕地面積は、水田が2,469,000haで畑地が普通畑、牧草地、樹園地をあわせて2,080,000haと農水省の統計では発表されている。つまり、国内の耕作地は54.3%を水田が占めているわけである。効率的食糧生産のため、瀬戸内地方や西南暖地では冬でも雪に埋もれず、霜が降りても凍結しない(しても表層まで)水田を有効活用して冬季に畑作(水稲裏作)が行なわれている。また、春から秋にかけては転作などもあり、全国的にも水田での畑作が行なわれている。

水田を畑作に利用することは、もちろん水田が耕地面積の半分以上を占めているため、その有効利用という側面が大きいが、水稲作は畑地作物にとっても輪作の対象作物として非常に都合がいいのである。

連作障害という言葉をお聞きになったことがある人は多いと思う。一般的な用語としてはいや地(忌地)と呼ばれるので、そちらのほうがなじみがあるかもしれない。同じ田畑で同じ作物を作り続けていると生育障害などが現れ、作物の収量や品質が落ちる。これが連作障害である。

連作障害には様々な原因があり、またそれらが複合して現れるため対策は何かひとつ行なえば良いというものではない。例えば、土壌伝染性の病害、土壌養分の過不足、アレロパシー(他感作用、自分以外の植物の生育を抑制する)物質の蓄積による自分自身への障害などである。
個別には、土壌伝染性の病害については土壌消毒、土壌養分の過不足には土壌診断に基づく施肥改善及び湛水除塩、アレロパシー物質については輪作などといった対策が採られることになる。このうち、輪作については特定の土壌伝染性病原菌を増やさない、土壌養分のバランスを偏らせないなどの副次的効果もあり、連作障害回避の定番といえる。ほとんどの方は中学か高校などの世界史で三圃式農業という言葉を習ったと思うが、中世ヨーロッパで春作、秋作、休耕の3つの圃場に分け、輪作体系とすることで連作障害を防ぐというものである。輪作体系を組むことは古くから行なわれている連作障害回避の知恵なのである。

ここで、この輪作体系に水稲を組み込むことの意味について考えてみたい。まず水稲が野菜類等の輪作の対象作物として優れている点はほとんどの作物と共通する病害がないということである。極端な例で申し訳ないが、例えばトウモロコシの輪作相手として牧草のソルゴーを使うと、どちらにもアワノメイガが発生するため、ソルゴーの後にトウモロコシを作るとなると後作のトウモロコシに甚大な被害を及ぼす可能性がある。このため、近い種類の作物は輪作対象として使いづらいが、水稲には対象となる作物に関わらずほぼそういうことが起こらないのである。また、栽培期間のほとんどを湛水状態で過ごすためもあって、(老朽化水田による秋落ち現象など一部例外もあるが)水稲自身の連作障害もほとんどない。このため、水稲後には安心してほとんどの畑作物を植えつけることが出来る。

また、水稲が夏季に湛水状態であるということは、水による空気の遮断と適度な温度による微生物の活発な有機物分解で土壌中が還元状態(極端な酸素不足)になり、普段好気性環境で活動している土壌病原菌が生き残りにくくなる。つまり土壌消毒がある程度できてしまうということである。また、排水のいい水田では水の地下浸透による浸透除塩、中干しなど表層水を流すことによっての除塩などが期待できる。それと同時に有機態窒素の無機化が進み、難溶性リン酸の可給態化などのメリットもある。
もちろんそれだけのことなら、有機物を施用して代掻きし、ひと夏湛水状態にしておけば良いということになる。しかし、水田の水管理はなかなかに大変であるし、水稲の栽培期間中は他のものを作らなくても困らず、栽培の手間もかけられるのであれば収穫物を換金することが出来る水稲を作付けするほうが色々と都合が良いと思う。

しかし、病害防除の面からは必ずしもプラスの面だけではないことにも注意する必要がある。例えば、ブロッコリーなどアブラナ科野菜の難防除病害である根こぶ病などは遊走子が水によって広がることが知られ、根こぶ病多発ほ場から代掻き直後の土壌懸濁状態になった田面水を流すことは病気の拡散につながる。また、様々な作物に広く病害をもたらす軟腐病菌などのバクテリアも水によって拡がる。このような病気が多発しているほ場の場合、少なくとも田面水は出来るだけ外に逃がさない工夫が必要になるので、大変である。

このように一部デメリットもあるが水稲と畑作物を交互に作付けする田畑輪換はさまざまな面でメリットが多い。もちろん毎作ごとに田畑輪換をする必要もなく、2~5年程度の輪換でも良い。このあたりをしっかり理解したうえで水田での畑作物に取り組んでいただければ幸いである。

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お知らせ:バイク関係の記事は引っ越しました

今回は単なるお知らせです。

当ブログのうち、バイク関係の記事を引っ越しました。検索などできてくれる人のために過去記事はこちらにも残しておきますが、新たなバイク関係の記事は次のブログ「蒼天快走記」に書くことになりますので、そちらでも引き続きよろしくお願いします。

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家庭菜園を楽しんでいる方へご注意

家庭菜園というものが流行しだしてもうずいぶん経つ。面積や利用者数などは把握していないが、どきどき目に付くので、今でも地道に行なわれているのだろう。

自分で野菜や花などを育て、収穫して飾ったり食べたりする、これは非常に楽しいことだろうと思う。それこそ収穫したての新鮮な野菜類は、それだけでスーパーの店頭に並んでいるものとは違うし、自分で育てたものであるという喜びがさらにその美味しさを増すことは間違いない。農作物を育て、収穫するということがどういうことなのかそれを知るためにも役立つだろう。趣味としても非常にいいものだとは思う。

しかし、である。家庭菜園はほぼすべてが利潤を追求してはいない。病気や虫の害にあって果実がだめになったり、そもそも植物が枯れてしまっても特に問題とはならない。せいぜいせっかくここまで大きくなっていたのに残念だなぁ、楽しみにしていたのになぁ、という程度のことだろう。なので、病害虫防除で農薬を使うなど面倒だし、なんとなく危ないイメージもあるし、また使い方もわからないし、でほぼ無農薬の場合が多いだろう。それでキレイなものが取れればうれしいし、とりあえず食べられたらいいということになるのだろうと思う。

だが、家庭菜園はゼロからのスタートでゼロで終わっても、そこでの収入を当てにしているわけではないので問題はない。細かいことを言えば、農地の借り上げ代とか種や肥料代などの投資があるわけだが、それは必ずしも収穫物として返ってこなくてもよく、菜園を管理したりした満足感への代金としてで十分なのである(もちろんそうでない場合もあるだろうが)。しかし農業を生業としている生産者はそうはいかない。農業を始めるに当たって、親から引き継いでいるならまだしも他産業からの転身などまったくの新規就農である場合は、借地代や農機具代、肥飼料費種苗費の負担などマイナスからのスタートである。マイナスからスタートして、なお利潤を上げなければならないわけだ。

ということを踏まえて、家庭菜園を楽しんでいる方にご注意申し上げたい。それは、あなたのところであなたの野菜や花に被害を及ぼした病気や害虫はその家庭菜園で増殖し、プロ生産者の農作物に被害を及ぼしている可能性があるということだ。特に、害虫は移動が早く、距離も長めである(種類によるが)。アザミウマやコナジラミ類など厄介なウイルス病を媒介する害虫もいる。これらは体長数ミリと目に付きにくく、増殖も早いので気が付けばあっという間に全体を蝕まれ、手遅れになってしまう。これがいっせいにプロ生産者の田畑へ飛び込んできたら、その被害は相当大きなものになるのである。

ただ、だからといってプロ並の完璧な病害虫防除を求めるというわけではない。あまりに費用や手間をかけすぎると趣味の域を超え、楽しんで作るという目的を失ってしまうだろう。そこで、出来る範囲でこのくらいは注意してもらいたいという項目をいくつか挙げてみたい。

1 近くにプロ生産者の畑がある場合、同じ(または近い種類の)品目はなるべく避ける。
2 被害を受けた植物はそのままにせず、焼却するかビニール袋などに入れて処分し、病害虫の拡散を防ぐ。
3 病害虫の発生源になることがあるため、雑草はなるべく生やさない。
4 様子がおかしければ、自己判断せず近くの農業改良普及センターやJAに相談する。家庭菜園であれ、相手にしないということはない。現場まで来てもらうというのは難しいが、必ず相談に乗ってくれる。

以上である。このほかにも農薬等を使わず病害虫を防ぐ工夫はあるが、個別に紹介していてはあまりに長くなるので割愛させていただく。しかし、それも含めて4で紹介した農業改良普及センターやJAに相談いただければ良い。美味しく食べるためにも病害虫は発生させないに越したことはない。出来る範囲で、工夫して上手に家庭菜園を楽しんでいただきたい。

ここでは結構厳しいことを言ったかもしれないが、「そうでなければならない」と言っているのではなく、偏屈親父の戯言ではあるが、こんなことにも留意する必要があるんだな、と思っていただければ幸いである。

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