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野菜類への腸管出血性大腸菌の付着について(追記あり)

先日、北海道で死者まで出たO157による集団食中毒は、食品業者が製造した漬物が感染源であることが明らかになった。以下、北海道新聞から引用する。

注:本文中で病原菌の腸管出血性大腸菌O157を「O157」と表記していますが、この表記が妥当性を欠く場合は専門の方よりのご指摘をお願いします。

-引用開始-
O157食中毒 感染従業員は味見役 岩井食品、材料付着の菌原因か(08/19 07:43)
 100人以上が発症、死者6人を出した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒で、感染源の漬物を製造していた岩井食品(札幌市西区)の従業員でO157が検出された2人は、製品の味見担当だったことが、18日までの札幌市保健所の調査で判明した。同保健所は保菌者が製造に携わったのではなく、材料に付着していた菌が原因となった可能性が高いとの見方を強め、調査を進めている。

 同保健所によると同社では、野菜を切って殺菌後、調味液に入れ、冷蔵庫内で24時間漬け込む。その後、味を確認して包装、出荷するという工程だった。

 感染した従業員は滅菌処理された作業着と手袋を着け、はしなどで製品を味見した際、体内に菌を取り込んだとみられる。共に腹痛などの体調悪化はなかったが、同保健所が実施した全従業員12人の検便で、2人からO157が検出された。

 同保健所は味見担当者が同時期に感染した事実から、もともと保菌していた可能性は低いとみている。材料のハクサイ、キュウリ、ニンジンに菌が付着していたのかを把握するため、産地にさかのぼって聞き取りを実施し、原因の特定を急ぐ。<北海道新聞8月19日朝刊掲載>

浅漬けO157食中毒 岩井食品工程に原因 札幌市、野菜調査で断定(08/25 07:09)
 110人以上が発症し7人の死者を出した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒で、札幌市保健所は24日、発生源となった白菜の浅漬けを出荷した岩井食品(札幌)の製造、管理工程に原因があると断定した。同保健所は、原料の白菜、キュウリ、ニンジンの流通ルートを調査。道内7農協・団体が出荷した野菜は、岩井食品以外の業者にも販売されたが、食中毒を含む衛生上の問題が発生していないためだ。消毒などの製造、管理工程をさらに調査し、発生原因の特定を急ぐ。<北海道新聞8月25日朝刊掲載>
-引用終了-

2つ目の記事から、ちょっと見れば材料には問題がなかったというようにも読めるが、製造工程で混入したとは書いておらず、やはり材料に少量ではあれO157が付着していたと考えるのが妥当だろう。漬物の製造工程に問題があるというのは、規定の殺菌工程が不十分であったということだろう。では、それとは別に大元の野菜生産者に責任はあるのだろうか?

前のエントリーで、堆肥はきちんと発酵させればO157は発酵熱によって死滅することを示した。また、堆肥にO157が残っていたとしてもそれが植物体内に移行して残存しないということもわかっている。では、なぜ植物体に付着するのだろうか。

O157は牛の腸内に存在する。なので、これが牛ふんに移行するのは自然な流れである。ということもあって、堆肥化する際には発酵によって十分な熱を出させること、堆肥化前と後で、同じ重機などを使わない(または十分に洗浄・消毒する)こと、未熟堆肥は使わないことを畜産農家、耕種農家ともに十分守る必要がある。ただ、以前のエントリーでも述べたとおり、完熟しているかどうかの確実な判定は難しく、また完熟しているからといってO157まったくいないという保証はない。O157はごくわずかの菌数でも発症するため少なければいいということもなく、厄介である。

さて、土壌中にO157が存在しても植物体内部には移行しないといわれている。つまり、堆肥の完熟度以外に現場で気を付けることがあるとしたら作物の可食部分を堆肥(土壌)に直接触れさせないということになるだろう。イモ類やダイコン、にんじんなどの根菜類の場合、これはどうにも避けようがない。また、地面のすぐ近くにあり、潅水や土寄せなどによって土壌と直接触れる葉菜類も難しいだろう。どうしてもその時点でだめだというなら水耕栽培をするしかない。果菜類なら可能かもしれないが、施設栽培でない場合、降雨などによる土壌の跳ね上がりは結構あり、完全に防ぐのは難しいかもしれない。

ということになれば、これで生産者に責任があるとか言われてしまうと、たまったものではない。もし、メディアや世論に叩かれるようなことになると生産者は自衛のため農家牛ふん堆肥は使っていません!というのが売りになってしまう懼れもあるだろう。もちろん気を使わないでいいというわけではないが、O157フリーの清浄野菜など、コストを考えたらどう考えてもやっていけないと思う。農作物価格にそのコストを上乗せしていい、というなら別だが。また、牛ふんが使えないとなると畜産農家も牛ふんを産業廃棄物として処理しなければならなくなり、そちらのコストも考慮しなければならない事態になる。

牛ふんは比較的安価で、土壌改良効果も高く使いやすい優秀な有機質資材である。もちろんその性質を正しく知って使わなければ問題が起こることもあるが、そういったリスクよりもベネフィットのほうが大きい。ここに新たに(というわけでもないが)腸管出血性大腸菌O157というリスクが加われば、畜産農家、耕種農家ともに非常に困ったことになる。そうならないよう、堆肥、そして農作物の流通に関して、きちんとしたルール作り(というか従来のルールに項目としての追加)が必要になるかもしれない。消費者の立場からも流通を守るために必要なことは何かも考えなければならないだろう。

今回の札幌の件のように業者を通した加工品の流通なら、業者における適正な扱いがあれば感染はほぼ防げる。しかし、一般家庭における野菜類からの感染については同じ事とはいえなかなか難しい。肉と同様「菌の付着は仕方ないもの」として調理などで気をつけてもらうしかないという流れになり、その知識が広げられていくというのが理想的な方向性かと個人的には思うのだが・・・。

H24.9.1追記

Twitterで相互フォローをしている消費生活相談員の方から(社)日本青果物輸入安全推進協会の広報誌「菜果フォーラム」で青果物の生鮮青果物の衛生管理についての記事が載っていると教えていただいた。これによると、日本では青果物に対する圃場での汚染はかなり少ないことがわかる。だから、通常は心配することはないと思うし、ここに書いてあるように取り扱いに注意してもらえばさらに安全性は増す。ということで、これはできるだけたくさんの方に読んで戴きたい。

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