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腸管出血性大腸菌の堆肥から植物体への移行について

前エントリーにおける摂津国人さんからのコメントに対し、職場で調べてみたところ、少しわかったことがあったので、返答もかねて簡単にエントリーにしてみた。ほとんど検索で見つけたので、リンク集に近いものになりました。

牛ふん堆肥での大腸菌の残存についてネット検索してみたところ、以下のような記事が見つかりました。「牛ふん中の病原性大腸菌O-157含有実態調査(PDF)」。独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)が公表している「肥料の安全性に係る情報提供」という資料の1つです。これによると、原料となる牛ふん中には大腸菌が検出されたものの、きちんと発酵して、60℃以上に発熱したものについては製品としての堆肥には大腸菌が検出されなかったとのことです。遺伝子検査では一部製品から検出されたものもあったようですが、菌そのものは検出されておらず、また検出された事業所においては原料と製品について同じ重機を使っていたためではないかとのことです。

また、発酵熱が不十分であることが懸念される場合でも、北海道畜産試験場において石灰窒素の添加による大腸菌の抑制試験が行われ、成果を上げているようです。

また、宮崎県総合農業試験場・土壌環境部で行われた大腸菌を接種した牛ふん堆肥を用いた試験において、大腸菌は植物体には移行しないとの報告もなされています。

ですから、質の悪い未発酵の牛ふんを使用していない、また原料と製品に同じ重機を使用していない限り、仮に有機栽培が牛ふんを好んで使用していたとしても慣行に比べてリスクが大きいとはいえないと思います。もし、有機栽培のリスクが大きいと主張するなら、疫学的調査を行うしかないのではないでしょうか。殺菌剤による差が出ないとも言い切れませんので。しかし、大腸菌が土中の堆肥から植物体に移行しないという報告もあったことですし、普通は気にすることはない、というのが結論ではないでしょうか。

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コメント

 こんにちは。わざわざ記事でご説明戴きありがとうございます。
    
 「牛糞の腸管出血性大腸菌は堆肥でも残存する。有機農法の野菜のサラダは危険」というのは元々は昨年のヨーロッパでの食中毒事件からいわれていた話のようです。
>焦点:大腸菌被害で有機農法に疑問符、バクテリアに「理想の環境」 | ワールド | Reuters
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-21572220110607?sp=true
  
 この件については松永和紀さんの解説記事があります。
>有機スプラウトが、ドイツのO104食中毒の原因だった | FOOCOM.NET
http://www.foocom.net/column/editor/4356
     
 ここでも書かれているように「有機」スプラウト(もやし)の水耕栽培の問題とされていますが、松永和紀さんが他の慣行農法等にもまたがる「サラダ野菜の衛生管理の問題」としているという点はさすがだと感じます。
    
 ですがここで「有機農法批判」側の方の一部が土作りについて誤解されているのか「牛ふんを使う有機農法特有の危険性」と理解されたようです。個人的にはこれはこれで農業の「自然」と「人工」を対立的に考える乱暴な考え方だとは感じます。

 それから出た調査結果としては白井洋一さんによると。
>ヨーロッパで48人が死亡した病原性大腸菌O104事件から1年、多くの謎が残されたまま| FOOCOM.NET
http://www.foocom.net/column/shirai/6748/
 にあるように取りあえず農家は基準に合う衛生管理をしていたとされ「ドイツの有機栽培農家に責任はなかった」と結論付けがされています。ここではエジプト産種子のマメ科のフェヌグリーク(コロハ)のスプラウト特有の問題とされているようです。
 現在行われている通常の衛生管理や洗浄でもリスクを回避できない様に見えます。
   
 この件についての「印象」から「牛糞の腸管出血性大腸菌は堆肥でも残存する。有機農法の野菜のサラダは危険」という認識が特にはっきりとした根拠も無く受け入れられているのかもしれません。
 問題提起としては妥当なのでしょうが、現実には慣行農法についても誤解されかねないようにも感じます。
 「生食サラダ用野菜の生産現場での衛生管理の重要性と調理時の処理についての一般的な問題」という部分の重要性が誤解されかねないようにも考えます。
           
 生食サラダ用野菜の衛生管理については
>野菜と大腸菌 感染症診療の原則
http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/6c0b384d18896b1f98b8dab289f7ea0f
 にもあるように生食自体と特に水耕栽培におけるリスクがあることが重要にもみえます。
 第一の問題は「生食」のリスクとその管理ではないかと思います。「慣行農法だと安全」も安直にみえます。
    
 ついでに調べてみたのですが「無農薬野菜(又は有機農法)には人の寄生虫の問題がある」といわれていますが「農薬」で「寄生虫駆除」を効果としてあげているのが見つかりませんでした。「当たり前」だから書いていないでしょうか。
 「寄生虫の撲滅」には「人糞未熟堆肥」の問題が大きいとは考えますがこの点についてもよくわかりませんでした。
    
 はっきりとした根拠も無く「有機農法は安全」というのも「有機農法は危険」とするのも良い事だとは思えません。
 無知な素人なので情報収集に苦労しています。がんさんような専門家の方の解説には感謝しています。
 長文失礼しました。

投稿: 摂津国人 | 2012年7月 6日 (金) 14時12分

>摂津国人さん

コメントありがとうございます。

いえ、摂津国人さんはいつもよく調べておられるので、返答にも緊張を伴います。私は土壌肥料が専門ではありますが、菌の生態、動態に関しては素人ですので、あまり変わりはありません。

しかし、現在指導の現場にいると言うことで現場感覚があるという利点がありますので、現場における状況を実感を持って述べられるということはあります。

そういったことからしても、農薬で寄生虫を駆除できるという話は聞いたことがありません(できないという証拠も知りませんが)し、有機農法と慣行農法で堆肥の使い方に差があるという感じはしないため、リスクに差があるとは言えないというのは以前述べたとおりです。

示していただいたリンク先については、今は十分に読み込む時間がありませんので、また後ほど読ませていただきます(ざっと目は通しましたが)。

それにしても普段、有機栽培をくさすようなことばかり言っている私ですが、この場合有機が不利になることはまずありませんね。

投稿: がん | 2012年7月 6日 (金) 19時51分

有機物施用と食中毒について,以前私のblogで食品安全委員会委託の調査報告書から,幾つか事例を紹介したことがあります。
http://tahata.seesaa.net/article/206782921.html
また,関連したエントリーとして,アイガモ農法に関するリポートを照会したことがあります。
http://tahata.seesaa.net/article/122884415.html

有機物施用と食中毒についての関係は,摂津国人さんのご指摘のとおり,栽培方法に関係なく,有機物を施用することによるリスクだと思います。
ただ,有機農業は化学肥料を避ける傾向にあることから,有機物施用回数や施用量が慣行栽培より多くなる傾向にあるため,そのため有機農業の方がリスクが高くなると思っています。

投稿: itoh(元tahata) | 2012年7月20日 (金) 23時05分

>itohさん

コメントありがとうございます。

なるほど。知識があって適切に堆肥を使っていればそれほど危険とは思えませんが、たとえ有機農家でも大腸菌のことまで考えている可能性は少なそうですしね。素人の付け焼き刃による有機栽培なら尚更でしょう。

土作りの話をするときはそのあたりにも触れていく必要亜あるかもしれません。

投稿: がん | 2012年7月21日 (土) 20時18分

先のコメントで書き忘れましたが,生産サイドでどんなに注意しても,消費者サイドの注意が不十分だと,やはり食中毒リスクは高くなると思います。
O157を始めとする食中毒菌は,土壌中にも存在します。それを軽視して,土を落とさないで食べる,土付きのまま台所に持ち込む,といった行為にも注意を払うべきです。
腸管出血性大腸菌は,数個~数十個で食中毒を発症するのですから。

投稿: itoh(元tahata) | 2012年7月21日 (土) 21時35分

>itohさん

コメントありがとうございます。

それもその通りだと思います。食肉ばかり注目を集めていますが、農作物もリスクがあることを消費者にも理解してもらうべきですね。

投稿: がん | 2012年7月22日 (日) 18時06分

摂津国人さんの発言は学術的に受け入れがたいような気がします。

投稿: SMAGIC鋼 | 2012年9月19日 (水) 22時11分

>SMAGIC鋼さん

コメントありがとうございます。

ご発言は具体的にお願いします。これでは何を仰りたいのかわかりません。

投稿: がん | 2012年9月20日 (木) 19時00分

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