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2012年5月

福島県の放射性物質除去・低減技術実証試験事業の問題点について

福島県は「民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業」において複数の農業用資材による土壌中の放射性セシウムの農作物への移行を低減する技術の実証試験を行った。その成績書をPDFで入手したが、内容に問題があり、またEMを検討資材の1つとしている。EMを使用した資材を検討対象にすること自体が悪いわけではないが、検討内容に不備がある上、このEM資材を提供した企業にデータをいいように利用されている。

ただ、このデータをEM提供者が都合よく利用しているという問題点については、京都女子大学の小波秀雄教授が「小波の京女日記」というサイトで指摘されている。そこについては小波先生の意見に同意なので、こちらでは別の問題点を指摘しておきたい。

実は、ツイッター上で小波先生が堆肥の標準施用量について質問を投げかけられておられたので、それに対して私のほうから「通常平米当たり2~3kg(t/10a)で、5kgというのはやや多めだが、やらない量ではない」という趣旨の回答をさせていただいた。そのときは何のことか分かっていなかったのだが、小波先生のサイトを見てこの問題に関することだと気が付いた。

さて、「農用地等の放射性物質除去・低減技術実証事業の試験結果(第2報)」(PDF注意)を見ると、EMオーガアグリシステム標準堆肥という資材を5t/10a施用している。では、5t/10aというのは堆肥の施用量として実際はどうなのか。実は、「堆肥」という言葉自体が専門家以外には定義があいまいで、なお原材料などによってその性質は様々である。であるため一般に土作りを目的とした肥料成分量が低めの堆肥なら5t/10aというのは(多めではあるが)通常野菜作りにはまったく問題がない。通常このように土作り資材として大量に施用される堆肥としては家畜糞では牛ふん堆肥、または植物質の堆肥(バーク堆肥など)が用いられる。

牛ふん堆肥は通常籾殻、オガクズなどの副資材が混合されており、このため窒素含量が0.3~0.4%程度であるから5t施用しても窒素全量で15~20kg/10aということになる。この程度の肥料成分含量であれば、実際に肥料としての肥効率は半分程度にも満たないため野菜類なら5t程度の施用は問題にならないということになるわけである。

ところが、EMオーガアグリシステム標準堆肥は5t/10aの施用量で窒素成分で157kg/10aにも達する。およそ3.1%である。これは、ほぼ鶏糞堆肥に匹敵する成分量である。牛ふんなどの10倍近い。通常、鶏糞は農業生産の現場では肥料成分量が多すぎ、また有機質資材としては肥効が早く、肥効率も高いため土作りというより肥料として使われる。このEM堆肥がどのくらいの肥効率で即効性がどのくらいなのか分からないが、それにしても常識はずれの量である。完全に土作りの範囲を超えているといわざるを得ない。

通常の作物試験であれば窒素施用量等の試験である場合を除き、肥料成分量は各試験区でなるべく統一する。この試験でもEM堆肥を除き、窒素施用量は統一されているところからもその常識は理解されているものと思われる。

このような試験を行うとすれば、県の事業であるためおそらく当該県の農業試験場だろうと思う。そこで土壌・肥料の研究を担当している部門があるので、そこが担当しているのだろう。とすれば、この施用量が通常の試験としては異常なものであることは当然理解されているはすだ。これだけ条件が違えば、試験作物の生育も変わるため、何を比較していることにもならないからである。であるから、自分が試験設計をするとすれば、化成肥料などを用いて(無処理区を除き)各試験区とも肥料成分量を合わせて行うと思うが、EM堆肥の成分量に合わせるのはかなり無理があるように思う。コマツナなどの葉菜類ならまだしも、花を咲かせることが必要な果菜類であれば、花芽分化を行わず収穫に至らない可能性もある。窒素成分が多すぎると、通常植物は花をつけにくくなるからである。もちろんいかに有機質資材とはいえ、これほど窒素量が多いと、おそらく植物体の硝酸態窒素含量も多いことだろう。

ではなぜこれほどの施用量で試験を行ったのだろうか。この試験事業の表題を見れば「民間提案型」とある。つまり、EMオーガアグリシステムの提供者がこの分量が放射性物質の吸収率を下げるのに効果的であると指定してきたのだろう。

しかし、収穫物調査の結果を見ていると、意外に大きな差はない。EM堆肥区が若干生育がいいという程度である。実際の収穫物を見ていないためなんともいえないが、もし品質等にも問題がないとすれば有機質の分解が遅く、相当緩効的に肥料成分が働いたと好意的に解釈することもできる。腐植に富むため、硝酸態にならずアンモニア態窒素のまま土壌に吸着されていたのかもしれない(それはそれで畑地としては問題か?)。しかし、植物に吸収されなかった成分はいずれは畑地土壌以外の環境に流出し、環境負荷も大きくなるなどの問題も懸念されるのである。

では、問題点を整理してみよう。
1 EM堆肥は肥料成分が多すぎ、試験の条件が違いすぎる
2 現実の施用量としても多すぎるため、実用技術として使えるか疑問
3 環境負荷の増加が懸念される

おそらく、試験を担当した職員はこのくらいのことは分かりすぎるくらい分かっていると思う。その心中を察するに余りあるものがある。この試験実施・公表については色々と事情があったことと思うが、せめて公表の時点で何か対策が検討できなかったものかと思われ、残念でならない。

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組織として信頼を得るためにできることとは

今年(平成24年)3月20日に京都で「日本の農業と環境シンポジウム」が開催された。主催は「農業生産法人 日本豊受自然農株式会社」である。シンポジウムの表題と主催者名を見る限り、何の問題もないように思える。しかし、内容を見ていくと、農業技術者として看過できない問題があると言わざるを得ない。

さて、ではプログラムを見ていこう。
(リンク先を参照ください)

めまいがしそうな表題が並んでいるプログラムであるが、それらの問題はとりあえず置いておくとして、この中で自分の立場上どうしても触れておかねばならないのは「自然農による酪農業の現状と今後の課題」というまともそうな表題で講演している片野敏和氏のことである。

片野氏が代表理事を勤めるJA函南東部は酪農専業というやや特殊な農協で、安全安心な牛乳を標榜している。酪農を行っていくうえで、廃棄物処理の問題は避けて通れない。大量に出る牛糞尿はそのまま捨てれば産業廃棄物であり、処理に非常に手間や費用がかかる。というわけで、それらはほぼ堆肥化され、耕種農家(食用作物の栽培農家)に有償で譲渡できるようにする。つまり(安全安心を謳うならなおさら)循環型農業を実践せねば酪農そのものの成り立ちが危うくなるので、堆肥などの有機質資材を利用した自然農とは親和性が高いのだろう。また、片野氏は自然農を標榜する娯楽的酪農施設運営会社の社長も勤めている。だから、こういう環境保全型農業のシンポジウムで講演をすること自体は自然な成り行きであるとは言える。

では、何が問題なのだろうか。

プログラムの表題を見ただけでいくつかツッコミどころがあるが、まずは開会のところで「由井寅子(日本豊受自然農株式会社 代表)」とある。もちろん主催社の代表なので、開会を執り行うのは当然のことだが、この由井寅子という人物は一般財団法人日本ホメオパシー医学協会(JPHMA)の会長でもある。つまり、日本豊受自然農株式会社はホメオパシーという200年もの歴史を持ちながらその効果がいまだ証明されていない、というよりプラセボ以上の効果がないとほぼ証明されている「医療」を標榜する団体の関連会社なのである。
JPHMAの問題点は様々に指摘されている(代表的なのはここ)が、ここでは詳しく論じない。しかし、この団体は通常医療を否定する立場をとっていることは間違いないし、日本豊受自然農のサイトでも現代の農業が病気の原因であるとも取れるような文章を掲載しているのである。このような団体の主催するシンポジウムの講演者に生産者の代表たるJAの代表理事が名を連ねていて良いのだろうか。

このシンポジウムのサイトや案内でプログラムを見たとき、錚々たるメンバーの講演者の中にJAの代表理事の名前があったらどう思うだろうか。JPHMAや日本豊受自然農の問題点を理解している人ならJAの信頼性に疑問を持つだろうし、農家を含むそうでない一般人が見たならJAが絡んでいるのだから問題ない団体・会社なのだろうと理解するのではないか。前者の場合、まじめに取り組んでいる多くのJA職員に多大な迷惑がかかるし、後者の場合は多くの人が現代医療や農業を否定する考えに傾く危険性をはらんでおり、結局はJAの信頼性に傷が付くことになろう。地方ごとにJAは独立した組織であるといいながら、一般人から見れば同一視される可能性があるのだ。

ひょっとしたら、片野氏は循環型農業の提携先として、また遊休農地の有効活用実践者として有益であるため、軽い気持ちで講演を引き受けたのかもしれない。しかしそれは、(自分が推測したとおりであれば)短期的に見ればJA函南東部に利益をもたらすかもしれないが、非常に危ない橋を渡っていると言わざるを得ない。できるだけ早いうちに営農指導員なりの技術者が問題点に気がついて、軌道修正をしてくれることを願うばかりである。

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