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緑肥作物と粘土鉱物等によるセシウムの除去は有効か?

3・11の大震災による原発事故以降、放射性セシウム137の土壌汚染が問題となっており、セシウムで汚染された稲わらを食べさせてしまった畜産農家から出荷された牛肉からもセシウムが検出され、これが基準値を超えたとして大きな話題となった。おそらく、その牛肉を食べてしまったからといって、少なくとも一度食べただけでは健康に影響はなく、まず心配は要らないと思う。しかし、基準値が定められている以上それを越えた生産物は出荷・流通させてはならない。このため、一刻も早い土壌の除染が求められている。もちろん、他にもたくさんの問題はあるが、ここでは農地の除染に絞って話を進めたい。

一番手っ取り早い方法は表土の除去である。セシウム137は原発事故によって空気中に拡散し、降下して地表面に落ちたため土壌においては表層に集積している。そこで、表土を削り取ってしまえば、その場所のセシウム137は除去することができる。しかし、この方法ではその削り取った表土をどこへ処分するかが問題となるし、農地においては土づくりがなされている作土層が除去される事になるので実用的にはいろいろ問題がある。この方法を適用するかどうかは処理方法も含めて様々な要因を検討する必要があるが、それについてはここの趣旨から外れるので割愛させていただく。

さて、そういった中で、北海道大学農学研究院植物栄養学研究室の渡部助教授が植物によるセシウムとストロンチウムの集積に関する研究報告がなされるなど植物に吸収させて除去しようという方法(ファイトレメディエーション)が報告され始めると、まだ報告が始まった段階なのにすぐそれに飛びつき、「ヒマワリで放射性物質を除去しよう!」などと呼びかける怪しい人物や団体が現れ始める。また、粘土鉱物などにセシウムが吸着されやすいとなると、吸着力の強いゼオライトを農地に散布しようとか体内被曝に対して粘土によるデトックスが有効であるとか訳のわからない話も湧いてくる。
それでは、ここでの話らしく植物によるセシウム吸収の有効性と粘土鉱物等によるセシウム吸着の有効性について論じてみたい。

まず、ヒマワリなど緑肥作物によるセシウム吸収についてであるが、よく見かける物言いは次のようなものである。「セシウムは植物の必須元素であるカリウムとよく似ているため植物が勘違いして吸収します。これによって土壌中のセシウムを植物に吸い上げ、土壌の除染を行います」といったものだ。しかし、普通に栽培されている数ある植物の中で、確かにヒマワリはセシウムの吸収効率がいい方ではあるようだが、実際の吸収量はどのくらいになるのだろうか。実は、「わからない」としか言いようがない。栽培の前後で収穫物のセシウム含量を調べれば吸収量がわかるかもしれないが、土壌中及び植物体中の養分の動きは複雑で、それがそのまま土壌中のセシウム含量を減らしているかどうかはわからないのである。実際に汚染されている地域の土壌条件にもよるし、施肥体系によっても変わる。また、カリウムはセシウムとの間で吸収に拮抗作用があり、カリウムの施用量が多ければセシウムの吸収量が下がると言われている。
仮に、植物によるセシウム137の吸収がうまく行き、土壌中のセシウム137が減少したとしても放射性物質を含んだ植物体の処理方法が確立していない現時点ではこの方法は進めるべきではないだろう。焼却などに際してうまく封じ込める方法があって、それは東電の原発敷地内で引き取ってもらえばいいという話もあり、もっともだとは思うものの、それが社会的コンセンサスを得られ、その流れが確立していない中ではとりあえず実施に向けて走り出すと言うのはあまりにも危ないと言わざるを得ないだろう。吸収したはいいが、残渣の引き取り手がない状況では放射性物質を濃縮あるいは拡散しただけになりかねない。
ちなみに、私は自分でも農業試験場に勤務していた頃、陰イオンではあるがリン酸蓄積土壌のリン酸吸収による除去試験を行ったことがある。植物体の吸収量と土壌中の残留量、施肥量が計算と合わず、随分苦労した記憶がある。ヒマワリ、ソルゴーなどで試験したが、ヒマワリは効率はいいもののソルゴーのほうがバイオマス量が多く、結局それほど変わらなかった。

さて、粘土鉱物やゼオライトなど陽イオン交換容量(吸着力)の強い鉱物粒子を利用してセシウム137を除去すると言うのはどうだろうか。ほとんどの方は気づいておられると思うが、これらを土壌に散布しただけではセシウム137の除去にはならない。セシウムはイオンになれば陽イオンとしてプラスに荷電しているので、マイナスに荷電しているこれらの土壌粒子に吸着されやすい。しかし、その場からなくなるわけではないので、まったく除去にはならない。土壌に混和し、しばらく吸着させた後、それらの粘土鉱物などだけを取り出せればいいが、そんなことは不可能である。セシウム137が溶け込んだ地下水などを浄化するのなら可能性もある(懸濁状態にした後沈殿除去)が、それとてどのくらいの除去効率があるのかはこれからの研究課題だろう。
また、それら吸着効率の良い粘土鉱物などを使って放射性物質を体から取り除く「デトックス」などの話も上がっているが、これに関しては論外である。体内に含まれるセシウム137だけを離れたところから引き寄せて体外まで吸着するとは到底思えないし、もしそういう作用があるならカリウムやナトリウム、マグネシウム、カルシウムまで吸着され、排出されてしまう事になる。つまり、粘土鉱物によるデトックスを行った場合は、それらのミネラルを後で補給しなければならない。可能性があるとしたら汗とともにそれらの物質が体外に出て行き、そこで吸着されるというパターンだが、それなら出た汗をシャワーででも流せばいいという事になる。粘土鉱物を使えば、体外に排出されたセシウム137が環境中に出て行くのを防ぎ、集中管理しやすくなるというメリットならありそうであるが。

ともかく、放射性物質の除染はまだまだこれからの技術だと思う。あわてて飛びつくことなく、冷静に判断して欲しい。

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