一体何を考えているのか!文部科学省
文部科学省は、平成21年3月31日付け官報で、「学校給食衛生管理の基準」を公表した。その趣旨としては、「本基準は、学校保健法の趣旨を踏まえ、学校給食における衛生管理の徹底を図るための重要事項について示したものである」とある。もちろん、学校給食は子供たちの健全な成長を図るために重要なものであり、(これは残念な話であるが)学校給食が子供たちの栄養バランスを保つための重要な役割を果たしている事例もある(つまり、家庭での栄養補給がバランス的に十分でない場合だ)と聞いている。
であるから、こうやって衛生管理基準を設け、学校給食について一定のレベルを保とうとする努力を行うのは当然のことであり、必要なことだろう。
しかし、私はその方面については専門ではないし、仕事で多少かかわることがあるとはいえ、webで次のような記事を見かけるまでは中身をよく読みもせず、「こんなものもあるんだ」くらいの感覚で受け流していたと思う。
【緊急提言】多幸之介が斬る食の問題●文部科学省が感情論的食品添加物バッシングを展開?
これは、FoodScienceという日経が運営しているサイトで、常々業務上でも私生活でも参考にさせていただいているサイトである。このサイトにおいて鈴鹿医療大学の長村洋一教授が連載されている記事の中で、「緊急提言」として書かれてるものである。これを読むことで、私も初めて問題意識をもった。しかし、このサイトは有料であり、会員にならなければ全文を読むことはできないので、少しでもこの問題をたくさんの人に知ってもらうためにできるだけただの引き写しにならないよう配慮しながら、自分の言葉で伝えてみたい。
この「学校給食衛生管理の基準」でもっとも問題と考えられる部分は以下のとおりである。
-引用開始-
Ⅳ食品の購入
3 食品の選定
イ 有害な食品添加物はもとより,不必要な食品添加物(着色料,保存料(防腐剤),漂白剤,発色剤)が添加された食品,内容表示,消費期限・品質保持期限(賞味期限),製造業者等が明らかでない食品,材料の内容が明らかでない半製品等については,使用しないようにすること。
-引用終了-
このイの冒頭「有害な食品添加物」とは一体何のことだろうか。文部科学省ともあろう政府機関が、こんな矛盾を含んだ言葉を使っていて平気だとはどういうことか。これは、私的文書ではなく、公的なものなのである。「食品添加物」は、その言葉の定義として厚生労働省では有害なものは除外されている、というか認可を受けられない。定められた用法、添加量を守っている限り安全と考えられるものである。つまり、この場合「有害な」と「食品添加物」という言葉がこの時点で矛盾している。これでは、一般に流通している食品添加物にも危険なものがあるとでも言いたげな表現ではないか。これでは、「食品添加物」が有害であり、天然物だけの自然食品に戻ろうなどという運動をしている人たちや、それに影響を受けた一般の人たち、またその尻馬に載るマスコミの言動にその根拠を与えてしまうのではないだろうか。
食品添加物は、さまざまなメーカーや研究者が食生活の改善を目指した努力の成果によって生み出されたものである。安全性を低下させることなく食品の保存期限を延ばし、味を向上させ、見栄えを良くする。特に、保存性を良くするという特長については、現在の食品流通にとって欠かせないものとなっている。現在、これほど食品がバラエティ豊かに便利に入手できるようになったのも、コールドチェーンなどの流通技術のみならず、こうした食品添加物の技術向上に依存している部分も大きい。
もし、食品添加物を何が何でも忌避するというのなら、こういった利便性を手放すというリスクを負う覚悟はしておくべきだ。学校給食では、「有害な食品添加物」といっているのだから、食品添加物そのものをなくすわけではないと思うが、もし、食品添加物を完全に追い出すことになるのなら、今の安価で栄養バランスの取れた給食の供給体制を保ち続けられるかどうかは非常に難しいだろう。
この「管理の規準」を読めば、一般の人が「文部科学省が言っているのだから、やっぱり食品添加物には有害なものもあるんだ」となっても不思議ではない。もちろん、きちんと認可された食品添加物であれ、大量に摂取すれば人体に悪影響のある場合があるが、それは自然食品であれ、事情はまったく同じである。極端な話をすれば、砂糖でも、塩でも、水であっても毒性としての半数致死量(LD50)は存在する。もちろん、塩の場合は高血圧、砂糖の場合は生活習慣病のリスクが増すという慢性的な悪影響もある。食品添加物に分類される物質もそれと同じレベルの話である。
文部科学省のこの「管理の基準」が一般に広がり、食品添加物にかかる部分のみが一人歩きをしだしたら、(個人的に感じていることであるが)一般の人たちは危険情報の方を信じる傾向が強いと思われるので、より食品添加物を排除する方向へ動いていくことが予測される。繰り返しになるが、それが流通体系に大きな影響を及ぼし、価格の向上や保存性の低下など生活に対してもたらすリスクがあまり根拠があるとは思えない「安心」を得られるというメリットを下回っているのかについて、よく考えておく必要がある。
少なくとも文部科学省は、この「学校給食衛生管理の基準」が与える影響について十分に検討し、政府の機関として科学的根拠も勘案して国民生活に悪影響が出ないよう考え直していただきたい。
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コメント
>>この「管理の規準」を読めば、一般の人が「文部科学省が言っているのだから、やっぱり食品添加物には有害なものもあるんだ」となっても不思議ではない。
これはいかんでしょう。せめて「不正な食品添加物」とか、そう謂う表現にはならなかったんですかね。多分文科省が念頭に置いているのは、中国産食品に含まれているような毒性のある食品添加物のことだと思いますが、現状の表現だと国内で正規に扱われている食品添加物にも有害なものがあるような印象になりますね。
これは言葉尻だけの問題ではなくて、たとえば尖鋭な市民団体が学校給食に「たまたま」使われていない食品添加物を調べ上げて、これは「管理の基準」で謂う「有害な食品添加物」なんだと強弁したり、と謂うことは幾らでも想定出来ます。そして、そう謂う場合は言ったモン勝ちですから、「○○は有害」と言う風評が一人歩きをするなんて事態に発展しかねないでしょうね。
投稿: 黒猫亭 | 2009年4月17日 (金) 15時10分
私も長村氏の記事を読んでちょっと調べましたが,この「学校給食衛生管理の基準」における食品添加物の記載,今回の改正以前からのものです。
文科省は歴史教科書の対応など,近年変な路線に走っているように思えます。
投稿: tahata | 2009年4月17日 (金) 22時03分
>黒猫亭さん
コメントありがとうございます。
そうですね。ものすごく好意的に考えれば、「言いたいことは理解できるんだが」とも言えるんですが、あまりにも表現がまずいですね。文部科学省は公的機関であり、科学的「権威」でもありますから、悪意を持って解釈する連中にはいいように使われてしまいますよね・・。
というか、あまりにも生徒の親たちに対していい顔をしようとし過ぎなんではないでしょうか。これでは、二流のマスコミと同じレベルだと言われてもしょうがないし、あまりにも親を舐めているとしか思えませんね。
投稿: がん | 2009年4月17日 (金) 23時33分
>tahataさん
コメントありがとうございます。
どうやらそのようですね。なので最近の風潮に乗った、と言うわけでもないようですが、文部科学省ともあろうものが、これでは・・・という感じですね。
中枢部分に、変な人物でもいるんでしょうか(笑)。いや、笑い事ではないですね。
投稿: がん | 2009年4月17日 (金) 23時42分