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土壌診断を活用した施肥改善を

最近、近所のため池やダムなどで水面に緑色のペンキをぶちまけたような光景を目にしたことがないだろうか。あまりに鮮やかな緑で、なおかつ水面に層を作って浮いているものだから、何も知らない人は本当にペンキか絵の具でも流入したのではないかと思うだろう。
これは、知っている人も多いと思うが、ほとんどの場合アオコと呼ばれる現象で、植物プランクトンの大集団なのである。具体的に言うと、アオコを形成する代表的な植物プランクトンであるミクロキスティスが昼になると水面に浮かんできて光合成を行っているのだが、これが大発生するとペンキのようなドロンとした流動体状になり、水面を覆って異様な光景を作り出すわけだ。
また、このアオコは水道水源に発生した場合は異臭の原因ともなるし、ミクロキスティスの中には毒素を作り出す種もある(ただし、日本では未確認)ほか、大発生した場合は水域生態系にも多大なダメージを与える。

なぜ、施肥改善の話の冒頭にアオコを持ち出したのか、疑問に思う方もいらっしゃると思う。それは、アオコが水域の富栄養化と密接に関連し、農地への肥料等の過剰投入がその一因となっており、アオコは見た目にもわかりやすい水域汚染の象徴とも言えるものだからである。もちろん、農業は主要因ではなく、どちらかといえば生活廃水等が最大の原因であると個人的には考えているが、環境負荷以外にも肥料原料の枯渇問題や、それに伴う肥飼料費の高騰など、農業はそのありようを考え直す転換点にきているのである。

現在、かなり見直しが進んでいるとはいえ、特に野菜生産では、環境への流亡も含めて植物の生育に適量になるよう元肥を多めに施用するという施肥体系をとっていることが多い。本来なら、植物の生育にあわせて少量ずつ回数を分けて施用するのが最適であると思われるが、そこまで手間を掛けていられるものではないし、現実的ではない。とはいえ、あまり多量に施用しすぎると逆に生育を抑制することもあるし、どうしても追肥は必要になるのだが。

このことからわかるように、現在主流となっている野菜生産の施肥体系では、どうしても塩類集積や地下水への肥料の流亡などが避けられない状態となっている。このままでは、水系のアオコの発生に関して農業が悪者にされてしまう可能性もあるだろうし、施用している肥料成分のうち結構な量が流れて行き、なおかつ環境に負荷を与えているとしたら本当に無駄な話である。

つまり、人間の手間(労賃に換算できる)、肥料費と植物の生育(収量と品質)を天秤にかけ、出来上がったのが現在の施肥体系であるといえるが、これから先、人類が生き残っていける環境を保全していくためには面倒だの何だのは言っていられない。また、省力的でありながら施肥量を削減する技術もあり、普及しつつあるので農業生産にかかわる人にはぜひともそのあたりを学び、実践していただきたいのである。

前置きが長くなったが(というかおそらくかなりの割合を占めると思うが)、そこでそういった技術の一つとして有望なのが土壌診断に基づく施肥改善である。特に施設園芸(ハウス)で同じような品目を連作している場合には、さまざまな肥料成分が蓄積している。そこで、肥料成分の蓄積量を把握することで、土壌に含まれている肥料成分を節減するとともに、過剰施用による障害を防ぐことができるのである。

施設園芸の場合、露地と違って雨にさらされることはない。このため、水分コントロールがしやすいのであるが、人力による灌水では降雨による水分供給に比べて水分の絶対量が少ない。このため、水分が表層のみにとどまることが多く、地下水と水分の層が途切れるため、肥料成分の地下浸透は少なくなるが、表面から蒸発によって水分が失われていった場合、毛管現象で水分とともに肥料成分が表層近くまで吸い上げられ、表層に塩類集積が見られるようになる。こういった現象によって、施設園芸では肥料の濃度障害が起きやすくなるのである。

以前説明したように、土壌粒子は負(-)に帯電しているため、正(+)に帯電している陽イオンを吸着しやすい。このため、一般に肥料成分のうち塩基類(石灰、苦土、加里など)は残留しやすく、負に帯電している※陰イオンである硝酸態窒素や硫酸根などは残留しにくくなるが、陰イオンでもリン酸は土壌中のアルミニウムや鉄と結合して難溶化し、土壌中に残留しやすい。

※注 負に帯電しているが、世間で言われてるマイナスイオンとは別物なので注意。
   マイナスイオンは科学用語ではなく、家電メーカーなどの造語。

そうは言っても、先ほど施設園芸のところで説明したように上から灌水した水が地下浸透していなければ流亡はせず、陰イオンである硝酸態窒素も残留することになる。主にこの硝酸態窒素が土壌のEC(電気伝導度)を引き上げ、窒素過剰障害だけでなく土壌水分の浸透圧を引き上げることによって根に障害を引き起こすこともある。

このように、土壌中の肥料成分の蓄積は、環境負荷が高まるだけではなく植物の生育にも悪影響を及ぼす。また、はじめのほうでも述べたように肥料費が高騰している現在、土壌中に残留している肥料成分に重ねて肥料を施用することは無駄以外の何物でもない。

そこで、土壌診断に基づく施肥改善の必要性が出てくるのである。基本的には土壌のpH(酸度)とECを量るだけで簡単な診断は可能である。pHの数値が低く、土壌が酸性に傾いていれば土壌中の塩基類が不足していることが多く、苦土石灰などを施用してやればいい。ECが高ければ、ECは硝酸態窒素と相関が高いため、窒素肥料を控えてやればいいということになる。これだけでも、少なくともほとんどの過剰障害は防ぐことができる。リン酸はECには表れにくいが、過剰障害も出にくいのでまずはこれでなんとなかる場合が多いのである。

ただ、塩基類に関しては、石灰、苦土、加里の間で拮抗作用があり、どれかが突出して多いとほかの塩基類は量としては十分に存在しても植物が利用できなくなることがある。このため、塩基類の欠乏症状が出た場合は、それぞれの残留量を測定する必要がある。

さて、本来ならここからそれぞれの成分について個別の説明と分析値の活用方法について説明しなければならないところであるが、それではブログでできることの範疇を超えてしまい、収拾がつかなくなるので、割愛させていただく。もし、当エントリをお読みになって、興味をもたれた生産者の方がいらっしゃったら、まずは自分のお住まいの都道府県が設置している農業改良普及センターにご連絡いただきたい。土壌診断についてどのようなことが必要か、分析値をどのように活用したらいいのか、必ず親身になって相談に乗ってくれるはずである。

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