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土作りをしよう

今まではいろいろと硬い話ばかりしてきたので、少々毛色の違った話をしたい。とはいってもユルユルの話でもないが、今までよりは少々建設的な話である。

自分は環境保全型農業というものを担当していて、一応専門は土壌・肥料である。一応とお断りしたのは、大学時代から土壌・肥料関係を専攻していたわけでもなく、社会人となってからも土壌・肥料一筋だったわけでもなく、異なった専門分野間での異動も結構あった。であるから、「専門である」とは言いにくいのだ。ただ、一番最近専門でやっていた分野がたまたま土壌・肥料であり、自分としてもできればその方面の技術をこれからも活かしていければと思っているので、一応とは断りながらも土壌・肥料が専門分野であると言っているのだ。

閑話休題。

妙な言い訳はこのくらいにして、そろそろ本題に入りたい。

さて、農業の基本は土作りであるという。これは、農業を営んでいる人なら誰でもわかっていることである。たとえば、山林を切り開いて新たに作った田畑で作物を作るとしよう。西日本では、たいてい岩石が風化した堆積土で、自分の住んでいる近辺では大概花崗土である。このままだと、比較的粗い鉱物粒子ばかりの土壌であり、排水性や通気性はある程度確保されているかもしれないが、肥料を保持する力や保水性はほとんどないだろう。時々、粘土質土壌が混じることもあり、その場合は保水性はあるが、逆に通気性や排水性が確保できない。いずれにしても、このような鉱物粒子しか存在しないような土壌ではほとんどの植物はまともに生育できない。

こういう土壌で、たとえば化学肥料だけをぱらぱら振ったところで、植物はまともに生育できない。化学肥料なら雨が降れば一気に効き、障害を起こす可能性もあるし、雨の量によってはすぐに流れてしまうこともあるだろう。また、本来土壌から供給されるべき微量要素もほとんどなく、これらの欠乏症によって十分な生育はできない。これは極端な例であるが、有機物によって土作りがなされている肥沃な土壌でも収穫物を収奪し、再び有機物を施用しないのであればまただんだんと土は痩せていく。結局植物の生育には不適な土壌になっていくわけだ。

つまり土作りとはたい肥などの有機物を施用して、土壌の排水性、通気性、保水性(これらを土壌の物理性という)などを向上させ、石灰やその他の微量要素などを施用することで養分バランスや土の酸度(これらを土壌の化学性という)を改善し、総合的に土を良好な状態にすることである。

では、有機物を土壌に施用することで、なぜ土壌の物理性が改善するのか。
土壌の基本は、いずれにしても鉱物の粒子である。これが粗ければ砂質土壌になるし、非常に細かければ粘土質土壌になる(これは少々荒っぽい説明であり、不正確な部分もあるが、おおむねそのようなものであるととりあえず理解しておいていただきたい)。そのままでは植物が生育していく上で、まずは物理性の面で問題があることはすでに説明した。土壌に施用された有機物は、土壌中の微生物によって分解され、徐々に養分などを出していく。ほぼ分解しつくされ、最後に残ったものがいわゆる「腐植物質」である。これは、濃い褐色で粘着性があり、この腐植物質が土壌粒子同士をくっつけ、土壌粒子の塊を作る。これを「団粒構造」という。この団粒構造が土壌に隙間を作り排水性や通気性が確保される。そしてその団粒自身が水分を保持し、保水性も確保されるというわけだ。
次に化学性であるが、化学性にもこの腐植物質が深くかかわっている。土壌粒子は通常-(マイナス)に帯電している。このため、+(プラス)に帯電している陽イオンと引き合うため、陽イオンであるカルシウム(石灰)やマグネシウム(苦土)、カリウム(加里)などをひきつけ、捕まえてしまう。そのほか、アンモニア性窒素も陽イオンなので土壌粒子と引き付けあうが、アンモニア性窒素は好気的環境下では硝酸化成菌の働きによって硝酸性窒素に変えられてしまうため、陰イオンとなって水によってすぐ流されやすくなる。
話を戻すが、この陽イオンをひきつける力が土壌の「緩衝力」である。土壌改良のひとつに石灰類などアルカリ性資材の施用による酸性土壌の矯正があるが、この緩衝力が強いとこういったアルカリ性資材を大量施用してしまっても急激に土壌pH(酸度)がアルカリに傾くことはない。この性質により陽イオンを土壌中に保持し、徐々に放出してくれるわけである。しかし、鉱物粒子だけの土壌ではこの力は農作物の生育にとってはふじゅうぶんなのである。腐植物質は負(マイナス)に帯電しているため、団粒構造を形成すると同時に土壌の緩衝力および保肥力を増大させるわけだ。
また、有機物を施用すると微生物が活発に活動し、微生物の体を構成するたんぱく質などとして窒素を取り込むことで、ガス化したり水に解けて流れていったりしにくい「地力窒素」も増やす。こうして、有機物の施用は「肥えた土」を形成するのに役立つのである。

しかし、何事にも必ず限度というものは存在していて、土の物理性、化学性が向上するのならどれほど有機質資材を施用してもよいというものではない。また、作物の収量・品質を向上させるのが目的なら、有機質資材の状態や種類にも気を遣わなければならない。牛ふんたい肥を例にとって説明してみよう。野菜生産には牛ふんは肥料としての計算はしない。あくまで土壌改良の資材として使われる。牛ふんの肥料成分含量は野菜生産にとっては(品目にもよるが)低く、腐植物質の含量はそこそこ高いからだ。牛ふんを10aあたり1~2t施用しても土壌表面にちらほらみえるほどにしかならず、見た目にはほとんど土壌改良の役に立つとは思えない。また、そのくらいの量であれば野菜類の生育にはほとんど影響しない。そういうこともあって、野菜農家は10aあたり4~6tないしはそれ以上の牛ふんを施用することが多い。しかし、1,2年はそれでほとんど悪影響が出ないとしても、だからといって連年施用を続けていると加里などが過剰に蓄積し、栄養バランスを崩して生育異常を引き起こすことがある。また、水稲と輪作をしている場合、水稲にとっては地力窒素が高すぎ、夏の暑い時期には地力窒素が溶け出して土壌中の窒素濃度が高くなり、倒伏してしまうのである。

このように土作りは、農作物生産にとってメリットが多く、ぜひ取り組んでいただきたいものである。また、有機質資材をうまく活用することによって化学肥料の施用量も減らすことができ、環境中への流亡も抑えられるので環境保全にも役立つ。また、畜糞を原料としたたい肥の場合、畜産農家が畜糞を適正に処分でき、うまくいけば儲けることもできる。ぜひ、有機質資材ごとの性質をしっかりと理解し、養分バランスなどにも留意した上で土作りを促進するようお願いしたい。

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