植物のワクチン接種による免疫獲得とは?

植物のワクチン接種による免疫獲得について、ツイッターで自分の記憶で語ったことにちょっとした(ちょっとではないかも)誤謬があり、相互フォローのBernardo Domorno(@Dominique_Domon)さんに間違いをご指摘いただいたのでいろいろ調べてみました。そこで、それらをできるだけわかりやすく解説してみたいと思います。ただ、分子生物学については、それを利用することもある立場にありながら、専門的には勉強していなかったため、簡略化した説明に間違いがないか自信がありません。そのあたり、専門家からのツッコミがあると嬉しいです。 昨年末、ツイッターで流れてきた「赤ちゃんレベルの「ゲノム編集」の入門の話」というみねそうさんのnoteを読んで、以前何かのセミナーで聞いた植物のワクチンによる免疫の獲得とメカニズムが似ているのではないかと思い、そのようなことをツイッターでつぶやいたところ、冒頭でも話したように相互フォローのBernardo Domornoさんから「植物のは弱毒ウイルスなので、違うと思う」旨のツッコミをいただきました。そこで、自分の記憶に間違いがあった可能性もあるし、間違ってはいなくても全然違うものである可能性もあるので、この際自分の知識をアップデートするためにもそれらを調べてみることにしました。 そこで、それらについて何かネット上に良い資料がないかと調べていたところ、たまたま自分が受講したセミナーのスライドが流れているのを発見しました。 弱毒ウイルスによる防除技術利用及び種苗技術との連携における課題(pdf) 宇都宮大学農学部生物資源科学科 夏秋知英 その時にこの演目で聞いた話を「植物が自分のRNAを分解して再利用する機能を活用して、ウイルスのRNAを分解してウイルス病から防御するが、一度感染したウイルスに対しては効率よく分解できるようになるため、感染しにくくなる」と理解していたわけです。 で、このスライドを読み返してみて、自分の理解が間違っていないかどうかを確認してみると、「最初から最後まで間違っているわけではないが、説明全体としては正しいとは言えない」という感じでした(苦笑) さて、そのあたりの防御機構を簡単に解説できればと思っていましたが、冒頭でも言った通り分子生物学は苦手分野で、主要な用語がなかなか理解できません。余裕があればそのうち適切な教科書を入手して勉強したいと思いますが、とりあえず今回の記事ではインターネットの力を借りようかと思います。 ということで、植物ウイルスワクチンに重要な役割を果たすサイレンシングの補足説明については以下のサイトを参考にしました。 東京大学 大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 植物病理学研究室 植物ウイルスの検出・同定と分類体系の確立 さて、それでは先ほどの夏秋先生のスライドの内容を中心に解説を試みたいと思います。まず、植物ウイルスワクチンの効果というのは、はっきりわかっているものは大きく分ければ2通りあるようです。 まず一つはウイルスには外被タンパク質というものがあり、そこからの脱外被を阻害して遺伝子の翻訳に進めなくするというものがあります。病原性の弱い弱毒ウイルスを接種することでこれを起こりやすくしておき、問題になる強毒のウイルスに感染した時にその増殖を抑制するというものです。これは自分には比較的理解しやすいものでしたし、早くから仮説として唱えられてきたようですが、外被が欠損したウイルスやそもそも外被を持たないウイロイドでもそれらの弱毒株などとの緩衝効果が見られることから、それだけでは説明がつきません。 というわけで、上記以外のもう一つは(といっても細かく分けると一つとは言えないかもですが) RNA介在性干渉効果というもので、ウイルスが主に遺伝子としているRNAの遺伝子型の発現を抑制するというものです。植物がもともと持っていて、遺伝子型の発現などにも関わるRNAサイレンシングという機構を利用しています。真核生物には広く細胞内に保存されているsmallRNAを使って、相同する配列を持つmRNAに結合させて、タンパク質合成を阻害したりすることで病害性ウイルスの遺伝子発現を抑制します。弱毒ウイルスの接種によってウイルスの遺伝子型を認識し、このsmallRNAが多数生み出されて同様の遺伝子型を持つ強毒ウイルスが感染したとしても、その増殖を抑制するわけです。 ここのところ、スライドには書いていない部分で中途半端に話を聞いていて、私は間違った理解をしていたわけですね…。 さて、では弱毒ウイルスは強毒ウイルスと同様に植物に感染して増殖しますが、なぜ病原性がないか、低いのでしょうか。実用化されている植物ウイルスワクチンのうち、CMV(キュウリモザイクウイルス)については2つのタイプがあります。 強毒ウイルスは、先ほど解説したサイレンシングに対抗するためそれを抑制するサプレッサーというタンパク質を持っています。ただ、このサプレッサーのサイレンシング抑制の作用機構はウイルスごとに異なっているらしく、詳細なメカニズムが解明されているものは少ないようです。CMVの植物ウイルスワクチンのうち一つは、強毒ウイルスが持っているこのサプレッサーが壊れているものと考えられています。このため、サイレンシングが有効に働き、ワクチン接種済の植物については後から来た強毒ウイルスに対してもサイレンシングの効果が発揮できるのでしょう。 もう一つはCMVに寄生するサテライトRNA(ウイルスに寄生するRNAがあるなんてビックリですね)によって病徴が抑制されているウイルスを利用したものです。これによって病徴を出さずにサイレンシングを誘導し、その後に強毒ウイルスが感染しても増殖しづらいとなるようです。 と、このように遺伝子発現の抑制をなぜかRNAの分解、と理解して覚えていたようです。資料にない部分を耳から聞いただけで覚えていたのでは危ういもんですね。反省して、もっと精進したいと思います…。 それから、きちんと調べたつもりですが、このエントリー中身に全く自信がありません。ほんまもんの専門家からどういうツッコミがくるか、ビクビクしています。

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Twitterで話題になった農薬を洗い落とせる水について

以前、Twitterで問題になっていたベジシャワーという商品について、いろいろ思うことがあったのでTwitterで連続tweetしました。で、埋もれてしまうのもアレなのでまとめてエントリーを起こしたのです。 さて、きっかけになったtweetは次のものです。 https://twitter.com/y_psychologist/status/1057801124151869440 問題点は以前に解説しているこの記事が参考になると思うのでご紹介。 http://gan-jiro.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-1b55.html 以前から繰り返し言っていますが、この商品がどういう性質のものであれ、これほど目に見える形で農薬が残留しているということは考えられません。農薬と一口に言ってもさまざまな種類があり、たった一種類の薬品?で抽出可能なわけはないのです。 自分自身は残留分析の担当をしたことはありませんが、肥料の化学分析は専門でやっていたことがあるので、成分ごとに分析できる形(多くは液体)にするための抽出や分解などの前処理については、その大変さはよく理解できているつもりです。 先ほど紹介したブログ記事にもあったように、トマトをアルカリなどで洗えば、リコピンかカロチンが溶け出してくると思われるので、おそらくその色ですよね。そうでないというなら、慣行栽培のトマトと無農薬で栽培したトマトの両方を洗ってその色を比べてみる必要があると思います。 また、トマト類は汁液が付き易い植物で、茎や葉などを触ったあと石鹸で手を洗うと黄色っぽい緑色の泡が立ちます。トマト果実の表面にはこの汁液がたくさん付着しており、水などで洗うことで、この汁液の色が目立っている可能性も十分考えられます。 なので、トマトの表面に問題があるほど農薬が残留し、あの商品によって農薬が除去できていると主張するなら、洗浄した液体を農薬分析にかけて、そのデータを公開するべきです。もちろん、一般に流通しているものをランダムに抽出してサンプルとしなければなりません。 このようなことから、あの商品説明は不誠実であると言わざるを得ないと思います。 さて、ミニトマトの農薬散布回数について、49回という数値に妥当性は本当にないのでしょうか。結論から言うと、あの言い方はかなりの誤解を誘導するものであり、わざと慣行栽培のトマトを貶める意図があると思われても仕方がないものだと言えますが、数値そのものは全く根拠がない、とまでは言えないと思います。 あの書き方だと、説明不足にもほどがあります。収穫されたミニトマト自体が結実から収穫までに49回も農薬が掛かっているかのようです。通常、開花から結実までは季節によって違うものの、最も長い時期でも45日くらいですから、それだと毎日、たまには日に二回農薬を散布しなければなりません。 元tweetを引用した方は5月植で7~9月に収穫するとおっしゃっています。それは全く正しいのですが、ミニトマトにはいろいろな作型があり、それだけではありません。Tweet主のおっしゃっているのはおそらく雨よけ夏秋栽培という作型かと思われます。 一般に流通しているミニトマトは、少なくとも西日本で多い作型は促成長期栽培と言って、8月中下旬に定植して10月ごろから収穫が始まり、6月くらいまで獲り続けるというものです。その作型になると、病害虫の発生が多い年の場合、農薬の散布回数はかなり多くなると言えます。 ここで、先に農薬の散布回数について、49回という数値の根拠について定義を考えてみます。日本には減農薬・減化学肥料栽培という用語の濫用を防ぐため、「特別栽培農産物の表示に係るガイドライン」というものがあります。 詳細な説明はここでは省きますが、農薬の使用回数を半分かどうか判断するために、それをカウントする際、実際に農薬を散布した作業回数ではなく、農薬の成分の数でカウントするというややこしいことをしています。 例えば、農薬散布の作業回数を減らすために、農家さんは殺虫剤と殺菌剤を混用するということをよくやります。この場合、殺虫剤が1、殺菌剤が1で合計2回農薬を使用したとカウントされます。 なので、先ほどのミニトマト促成長期栽培の場合、9~6月の10か月という長期間にわたる栽培になるので、月に2回農薬を散布したとして実際の作業回数は2×10で20回ということになります。 そこに、それぞれ殺虫剤と殺菌剤を混用して農薬を散布した場合、特別栽培ガイドラインの定義では20×2で40回もの農薬使用回数ということになります。そこへ、種子消毒や苗育成中の農薬を加えると49回というのはあり得ない数字ではないということになります。 特別栽培などについては、各都道府県が地域慣行栽培の農薬使用回数というのを公表している場合があります。これは、地域によって病害虫の発生状況が違うため、農薬の使用回数も違いがあり、全国で統一すると減農薬のやりやすさに地域格差ができるため、そのように設定しているものです。 そこで、先ほどの定義に戻って各都道府県が公表している農薬の使用回数を調べれば、ミニトマトの促成長期栽培の慣行において、49回としているところが出てくる可能性は十分にあるわけです。この数字はもし根拠があるとすればそこを参照した可能性が高いのではないかと思っています。 ※注 とあるフォロワーさんが教えてくださいましたが、どうやら群馬県の特別栽培認証基準で、ミニトマトの慣行栽培において農薬の使用回数が49回となっているようです。 http://www.pref.gunma.jp/06/f0910002.html とはいえ、先ほども述べたようにトマトの果実だけに絞って考えれば開花から収穫までの農薬散布回数は2~4回程度、成分の数を考慮してもその2倍程度までと言えるでしょう。しかも、ふつうは同じ農薬を続けて使うことはありません。使用回数の制限や抵抗性の回避を考慮するからです。 また、農薬の使用に関しては、人間の健康に影響がないよう、個別にその濃度や使用回数に関して厳しく制限されています。どの農薬も、普通に使われている限り収穫時に基準値を超えるような残留は起こりません。 これらのことから、かりに49回使用されていようとよほどのことがなければ、普通に流通しているミニトマトで水で洗ったくらいで目に見えるほどの農薬が抽出されるなどありえないのです。その数字のインパクトだけを強調して、農薬のものかどうかわからない「色」で脅すのはやり方が間違ってます。

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