窒素固定菌(根粒菌)とはなにか

さて、先日Twitterで根粒菌の話題が出ていたので、それに絡めて植物栄養で窒素の話、特に根粒菌というか窒素固定菌について取り上げてみよう。 窒素関連の話題については「有機物施用とアミノ酸吸収について」や「有機栽培と大規模農業経営は対立する概念? ~有機栽培での窒素供給について~」、「化学肥料、何が問題なのか」などで取り上げてきた。植物栄養の窒素としては十分に取り上げてきたと思うので、ご参照いただきたい。 窒素は地球上に豊富に存在し、大気のおよそ80%を占めている。しかし、それはN2という窒素分子の状態であり、非常に安定している。このため、生物の必須元素でありながらほとんどの動植物は大気中の窒素を直接利用できない。自力では有機物として循環している窒素しか利用できないのである。そこで、大気中の窒素を固定し、主に植物が利用できる形態にできる微生物がおり、それと共生するなどして取り込んでいる。それらの菌を総称して窒素固定菌という。それでは、菌の種類(大きなくくりです)ごとに解説してみよう。 1 根粒菌 グラム陰性の桿菌で、主にマメ科植物の根に寄生して空気中の窒素を還元してアンモニア態窒素に変え、宿主に供給する。鞭毛をもち運動性を有するが、宿主に寄生するとこん棒状などのバクテロイドとなり、宿主から光合成産物を受け取って、これを利用してアンモニア態窒素を供給するという共生関係にある。宿主の植物種に対する特異性から8種類に分類されている。窒素固定菌の中では最も効率がよく、9kg/10a以上の生産能力がある。 このようなことから、マメ科植物は窒素肥料を施用しなくても育つ。営利栽培の大豆などでも他の野菜類に比べると窒素施用量は少ない。また、このような性質を利用してマメ科植物を緑肥作物とすることも多い。秋~春にかけてレンゲソウ(紫雲英・ゲンゲ)を水稲の裏作に作付し、春先にすき込むことで空気中の窒素を取り込み、基肥の代替とすることも行われている。 2 フランキア アクチノリザル植物(ブナ科やバラ科、ウリ科などの一部)という植物群と共生する窒素固定菌であり、真正細菌の一属で放線菌。放線菌は細菌でありながら多細胞で、菌糸や胞子を形成し、見た目は糸状菌(カビ)のようである。ベクシルという細胞を形成し、そこで窒素固定を行う。 3 アゾトバクター 非共生的に窒素固定を行う細菌。好気的環境において単独で窒素固定を行い、酸素がないと生存できない。窒素固定だけでなく植物ホルモンの産生も行い、土壌に接種することでムギなどの増収効果があることが知られている。作物根圏に定着させる条件は明らかになっていない。 4 ラン藻類 藻類の一種ではなく、細菌と考えられ、近年は藍色細菌と呼ばれている。ラン藻類には窒素固定能を持つものも多く、アカウキクサなどと共生している種類もある。 5 その他 嫌気性菌のクロストロリジウム、光合成細菌の一部、メタン菌の一部、硫酸還元菌の一部などが窒素固定を行う。 6 番外 窒素固定ではないが、植物の根と共生する菌根菌というものもある。様々な高等植物の根と共生し、難溶性のリン酸を可溶化することで植物に供給する。糸状菌で、内部に着生するものと外部に着生するものがある。 以上、窒素固定菌について解説してきたが、菌の種名、分類についてはよくわかっていないので、そのあたりのツッコミはご遠慮願います(苦笑)

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IPM(総合的病害虫管理)ってなんだろう

農業生産の現場にいると、IPMという言葉を最近よく目にするようになった。これはIntegrated Pest Managementの略で、日本語では総合的病害虫管理と訳されることが多い。これは農薬だけに頼らず、利用可能なすべての防除技術をそれぞれ矛盾することなく組み合わせて実用上収益に問題ないレベルまで病害虫を抑制しようというものである、と私は理解している。念のため、FAO(国連食糧農業機関)による定義を引用しておこう。 『Integrated Pest Management (IPM)とは、農作物に対する有害生物制御に応用可能な全ての技術を精緻に考慮し、それらの発生増加を抑制する適切な方法を総合的に組み合わせ、農薬やその他の防除対策の実施は経済的に正当なレベルに保ちつつ、人や環境へのリスクを軽減または最小限に抑えることを意味する。IPMでは、農業生態系撹乱の可能性をより少なくし、有害生物の発生を抑える自然界の仕組みをうまく活かすことにより健全な農作物を育てることが重要視されている。』 ここでは人や環境へのリスクも軽減することが謳われている。ここでお気づきの方も多いと思うが、ことさら農薬の低減を強調したり、食の安全安心の向上に触れたりしていない。もちろん、「人へのリスク軽減」という部分からそう読み取れないこともないが、それらを含んでいるとはしてもそれが目的の主体でないことは明らかだ。 というのも、「食の安全」という意味において、農薬の低減や不使用はあまり意味のあることではない。農薬の使用基準については品目ごとに厳密に残留基準値を超過しないように設定されており、残留基準値自体も健康影響が起こらないように設定されていることは以前から述べている通りである。 ではなぜ、こういう概念が生まれ、普及してきたのだろうか。その歴史については農薬工業会のサイトが詳細に解説している。そちらはそちらでお読みいただくとして、以下で私の個人的見解を述べてみたい。 農薬工業会のサイトで解説されているように、IPMの元となる考え方は化学農薬に頼りすぎた防除体系に対する反省から1960年代から提唱され始めたようだ。ただ、私の印象では少なくとも日本では2000年代に入るまであまり浸透していなかったのではないかと思われる。というのも、農薬の使用基準に対する使用者の違反は平成15年に農薬取締法が改正されるまで罰則はなく、濃度や使用後日数が守られていない事例もあったのではないだろうか。それでも残留基準自体がかなり安全側に振った設定になっているうえ、使用基準も残留基準を超えないように余裕を見て設定されていたため、食品として流通している農作物で直接の健康被害はまずなかったはずである。 それでも平成15年の農薬取締法改正以後、というより平成14年の無登録農薬事件以降、世間(というより流通業者)の目が非常に厳しくなり、農薬使用基準の遵守や化学農薬の使用低減への意識は急激に高まってきたと思う。   また、その事件等とは関係なく、農薬の安全性向上は農薬メーカーでも取り組まれ、様々な病害虫に対し、より特異性が高く人畜への毒性が低い農薬が開発されており、そういった農薬への移行が進んでいる。また、農薬工業会のサイトにも書いてあったように昔の農薬のように強力で一網打尽できるような殺虫剤は害虫の天敵も撲滅してしまい、かえって害虫を増やすというような現象(リサージェンス)を引き起こすこともあり、また強力であるがゆえに同じ農薬を繰り返し使い、抵抗性も発達させ、効果も現れにくくなってきた。そのような面からもIPMには意義がある。 さて、それでは生産の現場ではどのような技術が用いられているのだろうか。 1 耕種的防除 栽培上の工夫で病害虫を減らす防除技術。土壌改良や耕起などによる土壌の膨軟化や水はけの改善によって植物を健全にするとともに土壌伝染性の病害を減らす、残渣の圃場外への搬出により病原菌などの増殖の防止、輪作によって特定の病害虫の増加を防ぐ、台木や抵抗性品種の使用、それらを総合して栽培環境を適正化することによって防除を行う。 2 物理的防除 物理的障壁を作ったりすることで病害虫の侵入を防ぐ技術。防虫ネットにより害虫の侵入を防ぐ、粘着トラップなどで害虫を捕獲する(これは個体数の低減よりも発生のモニター目的のことが多い)、光が散乱する資材で害虫の飛来を阻害する(UVカットフィルムも含む)、紫外線や緑色光で抵抗性を誘導する、黄色蛍光灯で夜蛾類の飛来を防止する、などである。 3 生物的防除 生物を用いて病害虫の活動を抑制する技術。天敵による捕食で害虫の密度を下げる、拮抗する微生物により病原菌の増殖を抑制する、害虫に対する毒素を持つ微生物資材(菌そのものの場合と抽出毒素の場合がある)により防除する、など。 4 化学的防除 いわゆる化学農薬を使用した防除。殺虫、殺菌のほか誘因や忌避剤も含む。 これらを相互に矛盾しないように使用する、と先ほど述べたが、このあたりのマネジメントが難しいのである。例えば天敵を使用する場合、特にハダニ類の場合は同じダニ類の天敵であるカブリダニを使うことが多いが、当然ながら殺ダニ剤は天敵のカブリダニも殺してしまう場合がある。天敵のカブリダニには効果が少なく、ハダニには十分な効果のある薬剤もあるが、そうすると使える薬剤が限られ、慎重に防除のタイミングを図る必要がある。また、天敵が活動しやすい環境を作る必要もあり、そのためには餌になる害虫もある程度の発生は許容する必要があり、化学的防除への切り替えのタイミングを見誤ると被害が増大することもある。このため、IPMをうまく運用するためには発生密度やその他環境のモニターが欠かせないのである。 今回、IPMの意義や技術内容を紹介しようとして、すごくまとまりのない文章になってしまった。しかし、言いたいことはあらかた吐き出せたと思うので、疑問点や誤りなどご指摘していただき、より理解が深められれば、と思っている。

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«畝山智香子 著 「健康食品」のことがよくわかる本」