岡本信一さんの「土づくり」とは

農業コンサルタントの岡本さんのブログをひさしぶりにのぞいたところ、土づくりについて一気に更新されていた。もともとの私の専門分野について言及されており、おおむね首肯できる部分が多いが、多少疑問点もなくはないのでご紹介とともに言及しておきたい。 今回、取り上げたいのは一つの記事には収まっていない。 ブログ「岡本信一 あなたも農業コンサルタントになれる -わけではない」より 土壌硬度が変わると成長が劇的に変わる 土の硬さが違うだけでなぜ作物の成長が変わるのか 土壌硬度と作物の関係がなぜわかるのか 土壌を耕す意外なものとは? 土作りを一発でおこなう=土作りに時間はかからない 「土作り」を再考してみよう この後、岡本さんのブログには少し続きが書かれているが、とりあえずはこの6つについてである。そして、わけて論じるのは難しいので、まとめてしまうことをお許しいただきたい。 まず思ったのはこの記事群は我々のような農業技術者ではなく、一般的な農家に向けて書かれているのだろうなということだ。なので、それを踏まえての話ということになる。 また、嫌味キャラみたいなつまらないツッコミもしておくと植物に対して使う場合「成長」ではなく「生長」を使う。本文中でも両方出てくる場合があるので、混同されているのなら修正いただきたいところだ。もしかしたら、何か狙いがあってわざとされているのかもしれないが。 さて、土壌硬度に意識を払っていなかったほ場について、それをコントロールするようになれば、確かに土壌硬度は生育に大きな影響を与えると思う。岡本さんも記事中で触れられているように、単純に土壌への貫入抵抗が根の張りやすさに一番大きな影響を与えているからである。そして、一般的に根圏の大きさと地上部の大きさには相関があると考えられており、根が大きく張るということは地上部もそれだけ大きくなり、葉菜類などは一番直接的に葉の量が増える分収穫が増えるし、ナスやトマト、キュウリなどの果菜類も大きな着果負担に耐える体力が付き、それだけ果実をたくさん成らせることができるからである。また、葉の量が増えるということは単純計算では光合成量が増え(実際はそんなに単純ではないが)、収穫物の糖度が増すということになる。 また、ここからは推測が入るのだが、貫入抵抗が大きければ根の組織もそれだけ密度の高い丈夫なものを作る必要があるため、よけいにエネルギーを消費することもあるのではないか。新たな組織形成の際、硝酸イオンやアンモニウムイオンからアミノ酸を経てたんぱく質を合成する際に糖分が必要になるからである。そうすると、地上部の糖度が下がることになり、食味のうち少なくとも甘味については下がる、ということが言える。 で、ここだけ見ると根は張れば張るほどいい、みたいに思えるかもしれない。しかし、岡本さんも触れているようにどのような品目をどういう目的で作るかによってそのあたりのやりようは変わってくる。まず一つは、品目によって有効な作土層の深さが違うことである。例えばイチゴなどでは高設の養液栽培が増えてきているが、そのうちの一つであるピートバッグ式などでは30×85cmのシルバーポリでできた袋に16ℓの培地を詰め、1袋当たり8株を植えるのだが、たったそれだけの根域で十分に育ち、10a当たり4tのイチゴが収穫できる。もちろん培地は根が理想的に張ることのできる物理性をはじめから作ってあり、1シーズンの栽培には十分その物理性を保つように作られている。つまり、土耕栽培でも同様の物理性を実現し、同程度の根域を確保し、適切な水分、肥培管理ができれば同等以上の収穫が得られるということである。 これがアスパラガスになると地上部の高さは1.5~1.8mに及び、根域の深さは最低でも80~100cmの確保が必要になる。イチゴとアスパラガスでは生育に必要な生理生態が違うため、土づくりの考え方も大幅に違ってくるので、目的と投入する労力によってやりようは考えなければならない。 そのほか、地下水位など考慮しなければならない土地も出てくるかと思うが、話が分散しすぎるのでここでは取り上げない。 さて、岡本さんのブログ本文にも出てきたが、土壌物理性を測る指標として「三相分布」という言葉がある。「固相・気相・液相」の三相のことで、一般的に理想的な比率は固相:気相:液相=4:3:3と言われている。しかし、これらと土壌硬度の関係は画一的ではなく、土質によって変わってくる。砂質土か、粘質土か、火山灰土かなどである。根の貫入抵抗は土壌硬度と高い相関があるとは思うが、通気性、排水性に関してはこの三相分布の影響が大きく、水が入れ替わること(潅水→乾燥または地下への流亡)によって空気も入れ替わり、新鮮な空気が根に供給されるため根の活性向上にはこの三相分布、つまり土壌孔隙が重要になってくるものと思われる。なので、土壌硬度は非常に重要な指標になるとは思うが、各地の土質ごとに適用が変わってくるのではないかと思われるのである。 また、根域の土壌物理性が理想になったとして、それを栽培シーズンを通して保っていくことができるのか、ということも考えねばならない。定植時には理想的だったものが、降雨によって孔隙が埋まり、三相のうち固相が優勢になって土壌硬度が増してしまえば元も子もない。有機物やその他土壌改良資材の投入はそれらを防ぐためもある。そのあたり、一発での土壌改良には非常に興味はあるが、そこをどのように解決したのかが疑問のある点である。なので、そのためには岡本さんの研究会に参加するのが一番の近道であるが、今のところ参加のめどが立っていないので、また検討したい。 ともあれ、土づくりは単純な有機物投入ではないという部分には賛意を示したい。その上で、自分も土づくりには物理性の改善も重要であるということは訴え続けてきたつもりだが、新しい考え方と(おそらく)コロンブスの卵的な新技術での土壌改良を岡本さんの立場から示されてしまったことには我々のような農業技術者は危機感を覚えなければならないのではないだろうか。

» 続きを読む

| | コメント (0) | トラックバック (0)

窒素固定菌(根粒菌)とはなにか

さて、先日Twitterで根粒菌の話題が出ていたので、それに絡めて植物栄養で窒素の話、特に根粒菌というか窒素固定菌について取り上げてみよう。 窒素関連の話題については「有機物施用とアミノ酸吸収について」や「有機栽培と大規模農業経営は対立する概念? ~有機栽培での窒素供給について~」、「化学肥料、何が問題なのか」などで取り上げてきた。植物栄養の窒素としては十分に取り上げてきたと思うので、ご参照いただきたい。 窒素は地球上に豊富に存在し、大気のおよそ80%を占めている。しかし、それはN2という窒素分子の状態であり、非常に安定している。このため、生物の必須元素でありながらほとんどの動植物は大気中の窒素を直接利用できない。自力では有機物として循環している窒素しか利用できないのである。そこで、大気中の窒素を固定し、主に植物が利用できる形態にできる微生物がおり、それと共生するなどして取り込んでいる。それらの菌を総称して窒素固定菌という。それでは、菌の種類(大きなくくりです)ごとに解説してみよう。 1 根粒菌 グラム陰性の桿菌で、主にマメ科植物の根に寄生して空気中の窒素を還元してアンモニア態窒素に変え、宿主に供給する。鞭毛をもち運動性を有するが、宿主に寄生するとこん棒状などのバクテロイドとなり、宿主から光合成産物を受け取って、これを利用してアンモニア態窒素を供給するという共生関係にある。宿主の植物種に対する特異性から8種類に分類されている。窒素固定菌の中では最も効率がよく、9kg/10a以上の生産能力がある。 このようなことから、マメ科植物は窒素肥料を施用しなくても育つ。営利栽培の大豆などでも他の野菜類に比べると窒素施用量は少ない。また、このような性質を利用してマメ科植物を緑肥作物とすることも多い。秋~春にかけてレンゲソウ(紫雲英・ゲンゲ)を水稲の裏作に作付し、春先にすき込むことで空気中の窒素を取り込み、基肥の代替とすることも行われている。 2 フランキア アクチノリザル植物(ブナ科やバラ科、ウリ科などの一部)という植物群と共生する窒素固定菌であり、真正細菌の一属で放線菌。放線菌は細菌でありながら多細胞で、菌糸や胞子を形成し、見た目は糸状菌(カビ)のようである。ベクシルという細胞を形成し、そこで窒素固定を行う。 3 アゾトバクター 非共生的に窒素固定を行う細菌。好気的環境において単独で窒素固定を行い、酸素がないと生存できない。窒素固定だけでなく植物ホルモンの産生も行い、土壌に接種することでムギなどの増収効果があることが知られている。作物根圏に定着させる条件は明らかになっていない。 4 ラン藻類 藻類の一種ではなく、細菌と考えられ、近年は藍色細菌と呼ばれている。ラン藻類には窒素固定能を持つものも多く、アカウキクサなどと共生している種類もある。 5 その他 嫌気性菌のクロストロリジウム、光合成細菌の一部、メタン菌の一部、硫酸還元菌の一部などが窒素固定を行う。 6 番外 窒素固定ではないが、植物の根と共生する菌根菌というものもある。様々な高等植物の根と共生し、難溶性のリン酸を可溶化することで植物に供給する。糸状菌で、内部に着生するものと外部に着生するものがある。 以上、窒素固定菌について解説してきたが、菌の種名、分類についてはよくわかっていないので、そのあたりのツッコミはご遠慮願います(苦笑)

» 続きを読む

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«IPM(総合的病害虫管理)ってなんだろう